任期5年の政権が50年間続いた北朝鮮向け放送を中断、韓国情報機関トップは国民に説明せよ【7月25日付社説】

 韓国政府は23日、国家情報院の北朝鮮向けラジオ・テレビ放送の全面中断について、「北朝鮮が先制措置を取ったので韓国も措置を取ったものだ」と明らかにした。北朝鮮は昨年1月に韓国向け放送を停止したが、それに伴う対応措置だという説明だ。だが、これは話にならないこじつけだ。北朝鮮は南北を「敵対的な二つの国」と規定した上で、「共存しない」として韓国への放送を中断したものだ。ところが、韓国はこれに応じ、交流を促すとして北朝鮮向け放送をやめた。つじつまが合っていると言えるだろうか。

【表】李在明政権の対北融和政策

 北朝鮮の韓国向け放送の性格は、韓国の北朝鮮向け放送の性格と全く違う。韓国の北朝鮮向け放送は、外部と完全に遮断されたまま奴隷のように暮らしている北朝鮮住民に対し、外の世界のニュースや出来事を知らせるものだ。北朝鮮住民には、豆満江の向こう側が中国だという事実さえ知らない人もいる。このような住民たちに対し、北朝鮮向け放送では、韓国ドラマを要約して見せたり、最新の歌謡曲を流したりもした。日々の天気情報を得る住民もいた。ラジオは北朝鮮の全住民が、テレビは70%以上の住民が聴取・視聴できた。「いつからか南朝鮮(韓国)の放送を聞くことが私の人生の理由になっていた」と言う脱北者もいる。

 北朝鮮の韓国向け放送は金(キム)一族(金正恩〈キム・ジョンウン〉総書記一族)に対する称賛、体制宣伝歌謡が中心で、これに加えて韓国の政治・社会を非難する程度だった。唯一残る実質的機能は、韓国側に派遣されたスパイを対象とした乱数放送だった。

 こうした違いを知りながらも、李在明(イ・ジェミョン)政権の当局者は「北朝鮮との緊張緩和措置として北朝鮮向け放送をやめた」と言っている。韓国が北朝鮮向け放送をやめると、北朝鮮が妨害電波の送出を中断したが、これを「成果だ」と自ら評価した。韓国政府高官は「妨害電波の停止は考えたことがなかったが、北朝鮮が相応の措置を取ったものだ」とした上で「相手がわれわれに対して敏感になり、注視していることを示している」と述べた。北朝鮮の妨害電波は韓国の北朝鮮向け放送送出を妨害するためのものだが、放送しないならこれを中断するのは当然のことだ。それを成果だと言っているのだ。

 北朝鮮向け放送は過去50年間続いてきた。金大中(キム・デジュン)政権、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権、文在寅(ムン・ジェイン)政権も放送をやめなかった。5年任期に過ぎない政権に、このような権限があると思っているのだろうか。切実な理由があるわけではない。金正恩総書記の歓心を買うためだ。政権を執ったとしても、やってよいことと悪いことがある。今回の件を主導したイ・ジョンソク国家情報院長は自ら北朝鮮向け放送中断について国民に説明してほしい。

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