韓国が作るノアの箱舟【萬物相】

 1941年9月から始まったドイツ軍によるレニングラード包囲戦は900日以上続いた。食糧は途絶え、餓死した人は数十万人に上ったとされるが、その中でも科学者たちが命懸けで守った研究施設がある。ロシアの植物学者ニコライ・バビロフが人類の食糧資源保存を目的に数千種の植物の種を集めたバビロフ・シードバンク(種子貯蔵庫)だ。ここでも12人以上の研究者が餓死したが、貯蔵されたじゃがいもや果物などには一切手を付けなかった。「人類の未来を守る」という思いで昼夜に関係なく管理を続けたという。

【写真】韓国で絶滅危惧種のミサゴ 死んだ状態で見つかる /慶州

 単なる保管ではなく、1回保管すればほぼ永久に貯蔵できる種子貯蔵施設も存在する。ノルウェーがスピッツベルゲン島の凍土層に建設したスバールバル世界種子貯蔵庫だ。自然災害や気候変動、伝染病、戦争などによる食糧資源の枯渇に備えるいわゆるポスト・アポカリプスの現場であり、現在130万の種子サンプルが貯蔵されている。戦争の影響でシリアとウクライナで種子がなくなった時に2回だけ金庫が開かれたことがあるが、それ以外では2008年の貯蔵開始以来、一度も開けられたことはない。

 韓国もスバールバル世界種子貯蔵庫と肩を並べる施設を管理している。慶尚北道奉化郡の海抜600メートルに位置する国立白頭大幹樹木園の種子貯蔵庫だ。マグニチュード6.9の地震や核爆発にも耐えられるよう地下46メートルの深さに厚さ60センチの強化コンクリートと三重の鉄板構造で建設された。国家保安施設に指定されているため地図には表示されない。スバールバル世界種子貯蔵庫は主に農作物の種子を貯蔵しているが、韓国は野生植物の種子を主に保管している。

 種子貯蔵施設は将来を考えると莫大(ばくだい)な経済的価値がある。これまで樹木から抗がん剤のタキソールが、コウライヤナギからアスピリンが抽出された。将来科学が発達し天然原料の効能が解明された時に、それらの種子がなくなっていればここから確保できる。慶尚南道咸安の城山山城発掘の際には700年以上前の高麗時代のハスの種が発見された。この種から700年ぶりに花開いたハスの花はアラ紅ハスと呼ばれているが、これも白頭大幹シードボルト(種子貯蔵庫)に保管されている。現在保管されている種子は韓国を含む190カ国の6109種、28万1248点に上る。

 韓国のミンドゥン山天池があれほど青くなったのも国際社会の支援もあったが、山林庁は「韓国も人類に貢献しよう」という趣旨で2009年から白頭大幹シードボルトプロジェクトを開始した。今後全世界の野生の種子約35万種のうち2050年までに30%を貯蔵する計画だが、今はわずか1.7%だ。それでも「韓国が作るノアの箱舟」と呼ばれるに十分値する。84人いる研究者の日々のご苦労に感謝したい。

李仁烈(イ・インヨル)記者

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