中国北京に本社を置くゲノム解析企業ノボジーンは今年6月、完全子会社のノボジーン・コリアを設立した。ゲノム解析力基準で世界5位の中国企業が韓国に子会社を持ち、病院や研究機関を対象に20-30%の割引を売りに本格的な韓国市場攻略に乗り出した。問題は彼らが扱う遺伝子情報が韓国人のゲノム・バイオ・データであるため、海外に流出した場合は国の安全保障に関わることだ。例えば韓国人がかかりやすい病気を海外のゲノム解析企業が事前に把握し、これを治療する新薬を先立って開発した場合、コロナ渦当時のように治療薬を海外に依存する状況になりかねない。とりわけノボジーンは韓国で確保した遺伝子情報などを韓国国内ではなく中国や香港、シンガポールなど中華圏で分析しているため、韓国人の遺伝子情報が海外に流出するとの懸念も高まっている。
■韓国人のゲノムを中国が解析
ゲノムは生命体が持つあらゆる遺伝情報の総合体を意味し、人間の身長など身体の外的特性はもちろん、疾病のリスクや薬物への反応といった特性もゲノムを通じて解明される。ゲノムは1冊の本全体、遺伝子はその本の文章一つ一つによく例えられる。最近は遺伝子情報を詳細に解析する技術が進歩し、ゲノム解析で個人をも識別できるという。ゲノムが非常にセンシティブ(微妙)な情報とされるのはそのためだ。
韓国に子会社を設立したノボジーンはゲノム解析世界2位のBGI(華大基因)の元副社長が2011年に設立した。ノボジーンは過去にも23年に台湾で入手したゲノム情報を中国に送り問題を起こしたことがある。当時自由時報など台湾メディアは「ノボジーンは台湾の代理企業を通じて学校や病院などでゲノム解析を低価格で受注し、海外の中国企業が解析を行っている」と報じた。台湾人のゲノムが中国に流出するとの懸念が広まったのだ。
中国系のゲノム解析企業による海外への情報流出問題はこれが初めてではない。ロイター通信は2021年、「中国BGIが52カ国800万人以上の妊婦のゲノムデータを集め、これを人口遺伝学研究に活用し、中国人民解放軍と共有した」との疑惑を指摘した。当時ロイター通信は「米国人と食糧供給システムだけを狙った変形した人口病原菌を開発できるだろう」と報じた。
ノボジーン・コリアは低価格の解析費用と短期間の分析などを前面に出してプロモーションを進めている。しかし韓国の子会社は事実上、ゲノム解析の受付センターとしてのみ機能し、解析用の機器などはないという。ある業界関係者は「ノボジーン・コリアは事実上の営業組織で、ゲノム解析を実際に行う場所は中国や香港など海外だろう」「中国やシンガポール市場から飛び出し韓国へと市場の拡大を狙っているようだ」と説明した。本紙はノボジーンとノボジーン・コリアにゲノム解析結果を国外に持ち出しているか問い合わせたが回答はなかった。