韓国軍当局は8月9日、「北朝鮮軍が前方の一部地域で対南拡声器を撤去している活動が識別された」と発表した。午前中の北朝鮮軍の動向を午後にすぐさま知らせた。今月4日から5日にかけて韓国軍が前方24カ所の対北拡声器を全て撤去する措置を取ったのに対し、北側が即刻呼応してきた、というのだ。李在明(イ・ジェミョン)大統領は「われわれが対北拡声器を撤去するや、北側も一部の拡声器を撤去している」「こうした相互措置を通して南北間の対話と疎通が開かれていくことを望む」と語った。
だが実は、北側が片付けた拡声器は全体でおよそ40基あるうちの1基にすぎなかった。2基外したものの、1基はすぐに戻したという。撤去ではなく故障の修理など技術的問題の可能性がある。韓国は拡声器を100%取り外したのに北朝鮮は2.5%外しただけなのを見て「拡声器撤去」と発表したのだ。韓国軍当局が北朝鮮側のさらなる撤去を予想していたのであれば誤判であり、実情を知っていても発表したのであれば韓国国民を欺く行為だ。韓国政府の対北措置が成果を出しているかのようにPRしたくてイライラしているわけだ。
李大統領は「今年6月にもわれわれがまず対北誹謗(ひぼう)放送を休止するや、あちら(北朝鮮)でも休止したことがある」と語った。対北放送は「誹謗」ではなく、北の住民に「自由」と「人権」を伝える唯一の外部通路だ。金大中(キム・デジュン)・廬武鉉(ノ・ムヒョン)・文在寅(ムン・ジェイン)政権も休止しなかった。対北放送が休止したことで北も妨害電波を発する必要がなくなったのであって、「相互措置」とみなすのも困難だ。
統一部(省に相当)は、北朝鮮人権報告書の発刊休止を検討している。北朝鮮人権法により、2018年以降毎年作っていたが、今年は「追加の内容が特にない」という理由で発刊をやめようとしている。北の住民がどのような苦痛の中で暮していて、その責任が誰にあるのかを歴史の記録として残したくない―というのだ。逆に米国務省は、国別の年次人権報告書で「北朝鮮政府は処刑や強制失踪など残忍さと強圧で統制を維持した」と記録した。分量は減っても、北の人権の惨状に関する記録は毎年欠かさない。
北と対話する必要はある。北を対話の場に引き出すため、あれこれ措置を取るのも理解できる。
だが、守るべき線がある。韓国国民の目を覆ったり普遍的価値まで無視したりしてはならない。