「非常戒厳の精神的苦痛、被告・尹錫悦は原告104人に一人10万ウォン賠償」判決は消費刺激クーポンか【コラム】

 最近、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の非常戒厳宣布で精神的被害を受けたとして慰謝料を請求する訴訟が相次いでいる。7月29日と8月1日にそれぞれ国民100人が尹・前大統領と金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防相、朴安洙(パク・アンス)前戒厳司令官を相手取って損害賠償請求訴訟を起こした。複数の弁護士が原告を募集しており、規模はさらに大きくなる見込みだ。これは7月25日にソウル中央地裁民事2単独の李誠馥(イ・ソンボク)部長判事が、尹・前大統領を相手取って市民104人が起こした訴訟で「10万ウォン(約1万600円)ずつ支払え」とする原告勝訴の判決を下したことに伴って始まった。

【図】尹錫悦前大統領が収監されている2坪独房

 時代錯誤的な非常戒厳が衝撃を与え、国の格を失墜させた事実は否定し難い。しかし、損害賠償責任を問うというのは別の問題だ。公務員の違法行為による慰謝料をもらおうと思ったら、違法行為による精神的損害を具体的に証明しなければならない。操作の過程で拷問を受けたケース、誤った登記で所有権を喪失したケースが代表的だ。

 これに比べ、大統領が憲法を守護して法令を守らなければならない義務は国民全体に対する政治的責任にとどまり、国民個々人に対して法的義務を負うものではない-というのが確立された大法院(最高裁)判決だ。こうした理由により、かつて「国政介入事件」で弾劾された朴槿恵(パク・クンヘ)元大統領に対して市民が慰謝料を請求した訴訟は棄却された。当時、裁判所は「朴・元大統領が義務に違反したという事情だけですぐに国民個々人の身体、自由、名誉が具体的に侵害されたとみるのは困難」「一般国民の精神的苦痛は千差万別で、異なることがあり得る」とした。

 ところが今回、裁判所が慰謝料を認めた根拠は、ひたすら「経験則」だった。「非常戒厳宣布および阻止を見守った市民が恐怖と不安、不便、自尊心の低下、羞恥心などの精神的苦痛と損害を受けたことは経験則上明白」というものだ。経験を通して得た一般的な法則を意味する「経験則」は、厳密な論証を避けようとするときによく使われる。

 ある現職判事は「犯罪被害者だけでなく犯罪報道を見て不快感を抱いた人も慰謝料を請求できるというような論理」と語った。「戒厳当日に早寝して知らなかった人は慰謝料を削るべきか」「民生回復支援金に次ぐ民生回復判決」という声も上がった。実際、オンラインには「損害賠償訴訟10万ウォン尹錫悦補償金参加申請方法」「損害賠償補償金参加申請」などの記事が数えきれないほど多い。誰でも受け取ることができるという形だ。

 政治行為に対する慰謝料の主張を拡大したら、きりがない。これでは、公職者に対する立て続けの弾劾や一方的予算削減について今の進歩(革新)系与党「共に民主党」に慰謝料を払わせろ、ということになりかねない。過去の判決を覆すのであれば、妥当な理由を付けるべきだ。全てを「経験則」の一言で突破した今回の判決は、国際人権法研究会出身で全国裁判官代表会議の議長出身でもある裁判官の定年退任前の最後の判決だという事実は、韓国の裁判所に深く垂れこめる「コード(政治的理念や傾向)判決」の暗雲を実感させる。

梁銀京(ヤン・ウンギョン)記者

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  • ▲12・3非常戒厳に関連して特別検事の捜査を受けている尹錫悦・前大統領が7月9日午後、2回目の勾留前被疑者尋問(令状実質審査)を受けるため、ソウル市瑞草区の中央地裁に出頭したときの様子。/写真=写真共同取材団

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