ソウル市江南区にある団地型マンションでは最近、住民が野生のタヌキの群れに悩まされている。今年5月から団地内に4-5匹のタヌキが出没し、ごみ捨て場にある生ごみの容器をひっくり返したり、噴水の水盤に入って泳いだりするなど、団地内を荒らしているのだ。6月には住民1人がタヌキに突進されて負傷するというアクシデントがあったため、団地内に捕獲用ケージを設置した。ところが今度は管理事務所の電話がひっきりなしに鳴るようになった。捕獲用ケージが設置されたことを知った動物愛護団体が「なぜタヌキの家族を引き裂くのか」「動物の生存権を保障せよ」と一日に何十回も電話攻撃を仕掛けてくるのだ。住民の間でも意見が割れており、閉じ込められたタヌキを捕獲用ケージから救出する住民も現れた。マンションの管理事務所の関係者は「捕獲用ケージの設置と撤去を繰り返しており、何かと大変だ」「タヌキは、死に至る可能性もある『狂犬病』の原因となるのだから、放置しておくわけにはいかない」と嘆いた。
タヌキが頻繁に出没するようになり、都心の至る所で「タヌキ捕獲戦争」が起きている。ソウルではこれまで、タヌキは主に良才川や炭川、安養川など、餌が豊富にある河川の周辺で目撃されるケースが多かった。しかし今ではソウル市内の25区のうち24の区で目撃されるほど生息域が広がっている。仁川市や光州市といった都市でもマンションの敷地内にタヌキの出没が相次ぎ、団地内に「タヌキ接近禁止令」が下された。光州市光山区にあるマンションでは、建物内の階段でタヌキが見つかり、消防当局が出動して捕獲した。また付近の別のマンションでは子どものタヌキ9匹が一度に発見された。消防庁が調査したところ、韓国全土でのタヌキの捕獲件数は、2023年の732件から昨年は1445件へと1年間で2倍近くに増えた。今年上半期も613件(暫定値)で、前年同期比で30%増えている。
野生のタヌキがマンションの敷地内に出没する理由は、都市化による生息地の消滅と餌不足のためだというのが専門家らの共通した分析だ。韓国国立生物資源館のソ・ムンホン環境研究士は「タヌキは川のある低山に多く生息しているが、川の周辺や山にマンションが立ち並べば人間に混じって生きるほかない」と指摘した。特に最近は、団地型マンションに緑地が多い上、タヌキも雑食性であるため、野山で自力で餌を探すよりも、マンション内のネコの餌や生ごみを餌にするケースが多い。
タヌキは見た目はかわいらしいが、実は人間に致命的なリスクを及ぼす可能性がある。イヌ科の動物であるため、人間がかまれた場合、致死率が100%に近い狂犬病に感染する可能性もある。特に夏場は、タヌキには一層注意する必要がある。タヌキは3-4月ごろに子どもを生み、秋まで子育てをするため、夏は子どもを守るために攻撃的になるのだ。ソウル大獣医学科の申南植(シン・ナムシク)名誉教授は「狂犬病のほかにも、接触しただけでヒゼンダニにかまれる恐れもあるし、『殺人ダニ病』と呼ばれるマダニにかまれて重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症するリスクもある」と話した。
各地方自治体は、都心に出没するタヌキへの対策に奔走している。ソウル市は、毎年春と秋の2回、タヌキが頻繁に出没する公園、川、山に、狂犬病ワクチンと魚粉を混ぜた餌を散布している。安養川や団地型マンションを中心に野生のタヌキが頻繁に現れる安養市は先月「野生のタヌキ出没への対処要領」を作成し、市民への注意喚起を始めた。忠北大獣医学科のチョン・ドンヒョク教授は「タヌキを見かけたら自分から近づいたり触ったりせず、安全のために1-2メートルは離れてほしい」とアドバイスした。
キム・ビョングォン記者