ネトフリより面白い? 赤面必死の愛国過剰 偽書『桓檀古記』【朝鮮日報コラム】

 「ウハク道人」という主人公が登場し、「2010年に統一された韓国が、高句麗の領土を回復するだろう」と予言した小説がある。『丹』というこの小説は、1984年にベストセラーとなった。同書を出版した出版社は1986年、後続シリーズとして1冊の歴史書を発売した。それが『桓檀古記』だ。『桓檀古記』は古代の歴史書として紹介され、世間を大変驚かせた。桓檀は実際には「ファンダン」と読むが、桓の字は「ファン」ではなく「ハン」と読むべきだと主張されていた。

 『桓檀古記』は、歴史に非常に関心がある開発途上国の少年だった筆者に強烈に突き刺さり、胸をときめかせる本だった。貧しくて小さなこの分断国家が、1万年前にはアジア大陸のほとんどを支配していた「桓国」という広大な国だったとは! それだけでなく、世界の文明が桓国から始まったというではないか。何か熱いものが体の中から湧き上がってくるようだった。後になって考えてみると、いわゆる「クッポン(過激な愛国主義)」だった。『桓檀古記』は、考え得る限りの「クッポン」の極致といえるものだった。

 しかしそんなムードは長くは続かなった。常識という壁があったからだ。そんな大昔に、「東西2万里、南北5万里」を支配するような大国がこの世界に出現することなどあり得たのか? 新石器時代の韓民族が、世界を圧倒するような武力を持つことなど可能だったのか? 当たり前の疑問が沸き上がり、「クッポン」は徐々に鎮まっていった。しばらくして、『桓檀古記』は1979年以前には事実上誰も見た人がいないということが明らかになった。学界で「偽書」との結論が出るまでさほど時間はかからなかった。周囲ではこの時、歴史に対する興味自体を失ったという人も少なくなかった。

 『桓檀古記』は、20世紀の韓国において民族主義が急成長する過程で、古代の栄光をこれでもかと誇張した結果物だと考えられる。しかし、はるか昔の祖先の精神が輝けば輝くほど、その後に続く韓国史のほとんどは『大陸の領土が韓半島へと縮小していく喪失と衰退の歴史』に格下げされてしまうことになる。

 人間らしい生活をして意味のある歴史を築くことは、国の規模や軍事力とは無関係だということや、他の民族を強引に征服して支配する歴史が決して誇らしいものではないということを、20世紀を生きた多くの人々はまだ悟っていなかった。「古代の檀君民族が韓国と日本を含むアジアの巨大文明を築いた」という『桓檀古記』の内容に、大東亜共栄圏や内鮮一体論のなごりが見えるという人もいる。ごろつきに殴られた学生が、実は加害者を慕っていたというのと同じだ。

 これは極右勢力の夢だったのか? そうとは言い切れない。2008年に『桓檀古記』の新翻訳本を出版した人物は、祖国統一汎(はん)民族連合(汎民連)韓国側本部の議長を務めた親北系の人間だった。この人物は「他の歴史書には見られない明確な主体史観を発見し、一人で喜びに浸った」とつづった。「クッポン」には左右も南北もなかったのだ。ところで、この「クッポン」の最高頂点だとも呼ばれるこの書物に、大統領が業務報告の場で言及し、それが歴史的な「文献」で、書物を巡る「論争」があるかのように話した。ネットフリックスよりも面白いどころか、顔から火が出るほど恥ずかしいことだ。

兪碩在 (ユ・ソクチェ)歴史文化専門記者

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