犬肉を初めて食べたのは高校3年生の時だった。母が「体に良いから」と、正体不明の食べ物を持ってきた。それが犬肉だと知ったのは、4・5回食べた後だった。戸惑ったものの、一方で力が湧くような感覚はあった。そうして高3の受験生活を乗り切った。しばらく遠ざかっていた犬肉に再び接したのは、社会人生活を始めてからだ。先輩の一人がおもむろに「もしかして、犬はいける口か(食べるか)」と尋ねてきた。密かな犬肉愛好家たちによる、点組織(セル)のような集まりの実体を知った瞬間だった。
【写真】法案に反対…犬肉試食パフォーマンスを行う「大韓育犬協会」のメンバーたち(2019年7月)
韓国人は大昔から犬肉を食べてきた。高麗後期の文人・李奎報(イ・ギュボ)は、犬の食用に関するエピソードを盛り込んだ随筆『虱犬説(しつけんせつ)』を書いた。『中宗実録』には、朝鮮王朝時代に、ある権力者に犬肉を賄賂として贈って要職に就いた人物の話が登場する。宣教師のクロード・シャルル・ダレは『朝鮮教会史』の中で、犬肉を「朝鮮で最も素晴らしい料理の一つ」と記録している。土鍋(トゥッペギ)に盛られた犬肉料理は、かつて「ケジャンクク」と呼ばれた。私たちが好んで食べる「ユッケジャン」は、ケジャンククの犬肉の代わりに牛肉を入れて作った料理だ。
犬はもともと、普遍的な食材だった。中でもアジア圏において犬食文化が隆盛を極めた。犬肉の消費国1位は中国だ。犬肉を「タンゴギ」と呼ぶ北朝鮮では、今でも大同江沿いなど景色の良い場所に高級タンゴギ料理店が新装開店している。タンゴギ料理をコースで提供する店もある。いわゆる「ケマカセ(犬〈ケ〉+おまかせ)」の店だ。犬食を嫌悪の対象と規定したのは西洋圏だった。産業革命以降に中産階級が形成されると、家の中で飼う愛玩犬が一般化した。家族になった犬を食べるのは「食人」も同然、という認識が広がった。
韓国国内の愛玩犬の数はおよそ550万匹と推定されている。今や人生の伴侶という意味を込め、愛玩犬を超えて「伴侶犬」と呼ぶ。こうした趨勢に合わせ、2024年に「犬食禁止法」が制定された。当時、積極的に動いたのが尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の配偶者である金建希(キム・ゴンヒ)夫人だ。尹・前大統領夫妻が我が子のように育てている犬だけでも6匹に上った。3年の猶予期間を経て、2027年から犬食が全面禁止されることになった。
7月15日は、韓国の暦で最も暑い時期とされる「三伏」の始まりである「初伏」だった。補身湯を食べることができる最後の初伏となった。ひっそりと補身湯の店を訪れたという人が、周囲に少なからずいる。ところが、かつて1万ウォン(約1090円)台だった補身湯の価格が、今や2万ウォン(約2180円)台にまで値上がりしているという。犬の飼育農家が姿を消し、犬肉の供給量が減少したためだ。質の良い肉も少なくなり、味も昔ほどではないという。好むと好まざるとにかかわらず、犬を食べる時代は終わった。犬たちが生死の不安から解放される日は、そう遠くない。