草間彌生さん【萬物相】

草間彌生さん【萬物相】

 大小さまざまな水玉模様で有名な草間彌生さんの作品世界が強迫性障害から始まったという事実はよく知られている。幼い頃に住んでいた家のテーブルクロスの花模様がある日突然、家中のあちこちにぷかぷかと浮かび、自分がその中に吸い込まれていく幻覚を見たのが始まりだった。この時に感じた恐怖を「悪夢のような幻覚」と呼んだ。テーブルクロスを片付けてしまう代わりに、草間さんは違う対応を取った。スケッチブックを取り出し、自分を苦しめた花の模様を描いたのだ。「むしろ安堵感が湧いた」と語っている。

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 すき間なくぎっしりと詰まった丸い点の繰り返しを見ると不安に陥る症状のことを、精神医学では「集合体恐怖症」と呼ぶ。草間さんはこの強迫観念を自らの芸術の源泉とした。不安から逃げずに立ち向かう「草間彌生の世界」の始まりだった。瀬戸内海の直島、仁川のパラダイスシティホテルや済州島の本態博物館に展示されている黄色や赤のかぼちゃの彫刻と、そこに描かれた大小無数の水玉は、すべて草間さんが内面の恐怖と戦い抜いた記録である。

 草間さんは男女間の肉体的な愛を恐れていた。幼少期の父親の浮気と、それによる怒りを娘への折檻(せっかん)で晴らした母親が残した心の傷だった。成人した草間さんは、男性器に対して恐怖に近い反感を持ったという。しかし、この反感も男性器を模した小道具で椅子やソファなどの生活用品を作ることにより昇華させた。その中でも「集合-千艘のボート・ショー」はアンディ・ウォーホル氏をとりこにし、「牛の壁紙」という模倣作品を制作し、世間の注目も集めた。

 強迫神経症のため1970年代からずっと病院の世話になっていたが、世間から姿を消す気は全くなく、むしろ有名になりたいという気持ちが強かったという。親友だと思っていたウォーホル氏が自身の作品を模倣すると不快感を示し、「私たちは同じ船に乗ったライバル)」だと宣言した。その後、ウォーホル氏よりも注目されようと取った行動は奇抜とも言えるものだった。全身に水玉模様を塗り裸体で街を闊歩したり、展示会場でおとなしく着物姿でいたかと思えば、カメラマンが現れると脱ぎ捨てて体にぴったりと密着したワンピース姿を披露したりといった調子だった。

 商業的センスも並外れており、水玉模様をモチーフにしたキーホルダーなどのグッズを自ら制作して販売したり、ルイ・ヴィトンのような高級ブランドとタイアップしてバッグなどを出したりした。著名な美術評論家のサラ・ソーントン氏は、こうした草間さんを「強迫観念の苦痛ばかりが大きいのでなく、野望も大きい」と評した。「私はこの世界のもう一つの点にすぎない」「人間の苦痛を永遠のハーモニーにしたかった」と語っていた草間さんが永眠した。誰もが弱点を抱えて生きる世の中のすべての「点」たちに勇気を与えて旅立っていった。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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