パンのパッケージにアニメ『ポケットモンスター』のさまざまなキャラクターが描かれた「ポケモンパン」は韓国でも1990年代末に発売されるやいなや大ヒットした。パンの味は普通だったが、子どもたちが注目したのは別の所にあった。おまけの「デコキャラシール」集めが目的でパンを買ったのだ。いったん終了していた販売が2022年に再開されると、わずか40日間で1000万個も売れた。パンは1500ウォン(約170円)だが、キャラクターのシールは中古品取引アプリで最高10万ウォン(約1万1000円)で転売された。売っている商品よりも、商品に含まれるおまけの方が大きな人気を集めたのだ。
【写真】ソウル市江南区のコンビニ「GS25」の店舗に並ぶ「民音社パン」
パンだけに限った現象ではない。数年前、あるコーヒーチェーン店がスタンプを集めた客にバッグを配ると、人々はこれを手に入れようとコーヒーを飲んだ。開店待ちの行列ができるケースが相次いだため、1人当たりの購入回数を制限したほどだった。昨年、韓国国立中央博物館の入場者が650万人を突破したのも、展示もさることながら各種のグッズを手に入れようとする人々が押し寄せたことが大きかった。
こうした流れに本も加わった。韓国の大手出版社「民音社」が先月末、あるコンビニエンスストア・チェーンと手を組んで「民音社のパン」を発売した。世界文学全集や詩集などの表紙でパンのパッケージを作り、その中に本の表紙と同じデザインのしおりを入れたところ、半月ほどで35万個以上も売れたのだ。外国でも同様だ。フランス・パリの有名書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」は本にちなんで販売するエコバッグや手帳などのグッズが売上全体の30%を占める。本でさえも書店の名前入りのスタンプを押し、グッズ化して売っている。『ハムレット』を買うにしても、「シェイクスピア・アンド・カンパニーで買った『ハムレット』」という購入経験として交流サイト(SNS)にアップロードし、自慢したいと思っている人々をターゲットにしたマーケティング戦略なのだ。
本を読書としてではなく、おしゃれでユニークな購入経験として楽しむことを「テキスト・ヒップ」と呼ぶ。地に落ちた本への関心を惹きつけるという点では肯定的だが、読書率を高めるのには限界がある。ソウル国際図書展に人々が押し寄せ、しおりやストラップなどのグッズ販売も増えたが、肝心の本は売れていない。10年前は成人の10人中6人が毎年1冊は本を読んだが、現在は3人しか読まない。
数年前、ヨーロッパの著作者たちにインタビューした際、本を読まない読者たちに歩み寄ろうとする著者たちの努力を目撃した。ある小説家が講演会を行うというので、ついて行った。適当におしゃべりでもするのかと思ったが、そうではなかった。自身の作品の一部を芝居にして上演し、自ら演技までした。上演後、本の内容や芝居を話題にして対話するという、一風変わった読書経験を提供したのだ。民音社のパンが巻き起こした社会の関心が真の読書につながるよう期待したい。