北朝鮮兵捕虜の韓国送還が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の国連総会での基調演説を通じて明らかになった後、捕虜送還を「非公開」とする「合意」があったかどうかをめぐり、韓国政府とウクライナ政府の立場が食い違っている。両国は北朝鮮軍捕虜の送還をめぐる非公開問題について、明示的な合意文書を作成するのではなく、慣例に従って口頭で協議したという。外交筋からは、「合意」の有無に対する両国の認識の違いにより外交対立が長期化すれば、今後のウクライナ再建事業への参加や、これからあり得る追加の捕虜送還協力などに悪影響を及ぼしかねない、と懸念する声が上がっている。
【写真】偽画像まで…李在明大統領がゼレンスキー大統領のほおをたたく姿のAI画像
◇対立長期化なら双方に外交的負担
李在明(イ・ジェミョン)大統領が米国・メキシコ訪問を終えて帰国した直後の27日夜、青瓦台(大統領府)の成耆洪(ソン・ギホン)広報疎通首席秘書官は「非公開合意の事実はないという(ウクライナ政府の)虚偽の発表に対し、強い遺憾の意を表し、公式な説明と謝罪を求める」との声明文を発表した。朴潤柱(パク・ユンジュ)外交部(省に相当)第1次官も28日、アンドリー・ベシキン駐韓ウクライナ代理大使を呼び、政府の厳重な立場を伝えた。これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領側近のドミトロ・リトビン氏はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で非公開の合意を否定し、「特定の捕虜がどこへ行くのかを隠すのは間違ったことだ」と述べた。
ただし、ウクライナ政府は28日(現地時間)、青瓦台の説明と謝罪要求などについて、公式の見解を示していない。ウクライナのメディアも、青瓦台の発表と韓国メディアの報道を引用して報じるにとどまった。専門家たちは、対立が長期化すれば両国にとって外交的負担になるとみている。
西江大学のキム・ジェチョン教授は「ウクライナ再建事業は韓国が積極的に参加する必要がある事業だが、感情を害して得になることはない」と述べた。「韓国はウクライナに冷淡だ」というイメージが欧州に広がった場合、韓国の防衛産業輸出にも悪影響を及ぼしかねない。
ウクライナとロシアの戦争が続いているだけに、北朝鮮兵捕虜が再び発生した際、送還問題が生じる可能性もある。国民の力の張東赫(チャン・ドンヒョク)代表は28日、再び捕虜の送還が発生する可能性があるとして、「今後どうやってウクライナの協力を取り付けるつもりなのか」とコメントした。ロシア・ウクライナ戦争に派兵された北朝鮮軍は1万5000人と推定され、北朝鮮が追加派兵する可能性も引き続き指摘されている。
大統領や青瓦台が直接乗り出すことは、できる限り避けるべきだという助言も出ている。峨山政策研究院のシム・サンミン上級研究委員は「一種の真実ゲームに入れば、懸案が未解決のまま続き、ほかの分野にも影響がおよぶ可能性がある」とした上で「青瓦台が外交部に任せず前面に出れば、外交の余地を急激に狭めるという短所がある」と述べた。
◇ロシア「韓国はウクライナを信じられない」と歪曲
韓国とウクライナが北朝鮮兵捕虜送還の非公開問題をめぐって外交対立を繰り広げている状況について、ロシアのメディアは「今や韓国もウクライナを信じられなくなった」「ゼレンスキー大統領が韓国に不満を抱いている」と報じている。ロシアでは「李在明大統領がゼレンスキー大統領を『殺人者』『裏切り者』と非難した」との報道も相次いでいる。歪曲(わいきょく)報道を通じ、韓国とウクライナの対立を積極的にあおっているというわけだ。
ロシアのRIAノーボスチは28日、ゼレンスキー大統領が国連演説で北朝鮮兵捕虜を韓国に送ったと電撃発表したのは、恨みを抱いたためだとする寄稿文を掲載した。韓国からパトリオットミサイルなどの武器支援を受けられるという期待が外れたため、報復に出たというわけだ。
これに先立ち、ロシアの通信社レグナムは27日(現地時間)、「ゼレンスキー大統領が韓国をひどく怒らせた」と題する記事で、「やわらかく丁寧な話法を用いる韓国の政治文化では前例を見ない、厳しい発言が李在明大統領の口から飛び出した」と報じた。親ロシア系メディアのレンタ・ノボスティ・キエバはこの記事を転載し、李在明大統領がゼレンスキー大統領の頬をたたく人工知能(AI)画像まで添付した。