脱北者のハン・ソンイさん(34)はテレビドラマ『相続者たち』(2013年)を見て俳優イ・ミンホに夢中になり、2014年に韓国へ渡った。先の秋夕(チュソク=中秋節。今年は9月25日)連休には、イ・ミンホが出演する映画『暗殺者(たち)』を見るため映画館に足を運んだ。ところが映画を見ながら「これは何だ」と思った。北朝鮮で見た宣伝映画『民族と運命』と内容がそっくりだったからだ。『民族と運命』は1992年に当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記の指示で始まり、2006年に70部まで制作された連作劇映画で、さまざまな人物の生涯を通じて北朝鮮の体制を宣伝する映画だ。韓国をおとしめ、北朝鮮の方が優れているという点を常に強調する。
ユーチューブに個人チャンネルを開設しているハンさんは最近、『暗殺者(たち)』のレビュー動画を配信し、「北朝鮮で見た宣伝映画とストーリーが似ていて驚いた。このように歴史を歪曲(わいきょく)する映画は退場させるしかない」と述べ、話題になった。30日に本紙の電話インタビューに応じたハンさんは、「好きな俳優が出演した映画で歴史的事実をねつ造し、歪曲していて非常に戸惑った」と語った。
-二つの映画のどの部分が似ていると感じたのか。
「『民族と運命』には、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が自分の権力を守るため、部下に妻を暗殺させたという内容が出てくる。権力維持のために妻をいけにえにささげたという描き方で、その部分が『暗殺者(たち)』のストーリーと似ていると感じた。韓国に来て陸英修(ユク・ヨンス)夫人銃撃事件について詳しく知り、北朝鮮の指図で起きた犯罪だと分かった。北朝鮮で映画やドラマを通じて見ていた内容とは全く違い、『自分はだまされて生きてきたのだ』と衝撃を受けた。ところが『暗殺者(たち)』は北朝鮮映画とあまりにも似ているのではないか」
-『民族と運命』は北朝鮮でどの程度知られた映画なのか。
「北朝鮮では、知らなければスパイだと言われるほど住民なら誰もが知っている映画だ。面白い映画として評判も良かった。幼いころから脱北するまで、テレビで繰り返し放映された。最初はテープで見て、その後もテレビで流され続けた。北朝鮮は映画を作る技術と資本が不足しているため、同じ映画を数え切れないほど繰り返し流す」
-『民族と運命』では朴正煕元大統領をどのように描いているのか。
「権力に目がくらんだ人物として描く。彼の権力欲のために韓国の住民が苦しみ、哀れに暮らしているという構図だ。北朝鮮の体制宣伝にぴったり合う内容だ」