先月30日、残業を終えて帰宅途中だった会社員のキム某氏(31)は、ソウルの地下鉄駅の広告板で、普段よく食べているチキンブランドの広告を目にした。自宅に着くころ、配達アプリを開いたキム氏は、いつものようにチキンを注文しようとして手を止めた。この会社の広告モデルを務めていた俳優イ・ミンホのことが頭に浮かんだからだ。イ・ミンホは最近、歴史歪曲(わいきょく)論争が持ち上がった映画『暗殺者(たち)』に出演した。オンライン上では、イ・ミンホがこの会社のチキンを手にした広告写真に赤い「不買」マークを付けた画像が広がっていた。
【写真】和気あいあいとした雰囲気の『暗殺者(たち)』PRイベント
映画『暗殺者(たち)』を巡る歴史歪曲論争が商品市場に飛び火した。同映画が陸英修夫人銃撃事件の背後に当時の朴正煕大統領がいた可能性を示唆する内容を含んでいたことから起きた歴史歪曲論争が、不買運動へと拡大したのだ。映画に出演した俳優らが広告モデルを務めた商品が不買の標的となった。
『暗殺者(たち)』の主演の一人、ユ・ヘジンが広告モデルを務めるハンバーガー・フランチャイズも不買対象となった。同社はユ・ヘジンをモデルに新商品のバーガーを広告していたが、『暗殺者(たち)』の歴史歪曲論争が持ち上がった後、この広告をもじったパロディー画像がインスタグラムやスレッズなどで広がっている。元の広告ポスターでユ・ヘジンの顔だけをモザイク処理した画像だ。同社のアプリで会員退会した後、それを認証する写真もSNSに相次いで投稿されている。
店舗も普段より閑散としている様子だ。1日午前11時50分、ソウル市九老区のあるハンバーガー店は昼食時間を前にしても閑散としていた。約30卓あるテーブルのうち、客が座っていたのは4卓だけだった。近くの会社に勤めているという会社員のパク某氏(30)は「普段なら昼食時間には人が多く、料理を受け取るまで15分以上かかるが、今日は人があまりおらず、3分もしないうちに受け取れた」と話した。淑明女子大学消費者経済学科のイ・ホンジュ教授は「消費が自分の価値観や社会的意見を表明する手段になった」と述べた。
『暗殺者(たち)』の歴史歪曲論争が不買運動に広がると、企業側も困惑している。イ・ミンホが広告に出演したチキン・フランチャイズの関係者は「イ・ミンホは8月31日に契約期間が終わっており、現在は当社の広告モデルではない」「当時も韓国国内ではなく中国市場を狙って起用したモデルだった」と説明した。ユ・ヘジンを広告モデルに起用したハンバーガー会社も「ユ・ヘジンは秋の新商品キャンペーンに限って起用した単発モデル」「2週間以内に契約が終了する予定だ」と明らかにした。
こうした中、オンライン上では『暗殺者(たち)』を批判するミーム(インターネット上の流行)やパロディーも相次いでいる。映画に出演したパク・ヘイル、ユ・ヘジン、イ・ミンホの顔が並ぶ『暗殺者(たち)』のポスターの題名や文句を変える手法だ。『自殺者(たち)』『ファーストレディー(たち)』などの架空の映画ポスターが代表例だ。インスタグラムやスレッズなどには、ノ・ムヒョン元大統領の死にも別の黒幕がいたと仮定した『時計と岩の男(たち)』『押す者(たち)』といった架空ポスターが投稿された。『アシュラ:公訴取り消し、止まった5つの裁判』という題名を付けた画像も登場した。
不買運動や各種ミームは20-30代が主導しているとの分析が出ている。彼らは1974年の陸英修夫人銃撃事件を直接経験していない世代だ。しかし、他の年齢層よりもこの映画を歴史歪曲と見る人が多かった。「改革新党」傘下の「改革研究院」が先月29日、成人男女1017人を対象に「『暗殺者(たち)』が陸英修夫人銃撃事件の背後に疑問を提起したことを歴史歪曲と見るか」と尋ねたところ、30代は73.8%、20代は65.7%が「歴史歪曲と見る」と答えた。
こうした中、「朴正煕大統領記念財団」と「育英財団」、「朴正煕学術院」は同日、共同声明を出し、映画制作陣に対し国民への謝罪と上映中止を求めた。