救急車はタクシー代わり? 利用患者の88%は軽症

救急隊員、重度の患者に手が回らず

■病院から病院に移送される重度の患者は非常に危険

 緊急時の119番は、一般人の要請による緊急搬送サービスだ。一方、小さな病院での治療が困難な患者を大きな病院に移さなければならない場合、つまりすでに病院にいる患者が他の病院に移送される場合は民間業者が運営する救急車を利用しなければならない。119番は、病院にいる患者が他の病院に移る際の移送を対象としていないのだ。こうした病院間の移送は医療陣からの要請で行われるため、重度の患者が占める割合が急激に上昇する。しかし、民間が運営する救急車は救急隊員が搭乗しないケースが多く、たびたび問題を引き起こす。

 昨年8月、40代中ばの男性が韓国東海岸でスキューバダイビングをしていたところ、意識不明の重態に陥った。患者は脳挫傷で江陵の総合病院の集中治療室に運ばれた。

 ところが高圧酸素治療を必要とすることから同病院では手に負えず、首都圏の大型病院への移送が決まったが、移送途中で死亡した。患者は重体であったにもかかわらず、救急車には救急隊員や医師、看護婦らが同乗しなかった。患者が心肺停止に陥った際も、同乗していた家族が先にこれに気付いた。緊急医療に関する法律には、民間業者が運営する救急車にも急を要する患者の移送には医療関係者が必ず同乗するよう明記されている。

 しかし、現実はそうではない。救急車を運営する民間企業は救急隊員の不足や経営難などを理由に運転手一人で担当するケースが多い。このような場合は、患者を送る側の病院の医療陣が同乗しなければならない。地域の救命救急センターから病院に移送される患者を担当する応急救助隊員は「小規模の病院は重度の患者を移送する際も、同乗できる医師や救急隊員、看護婦がいないため、運転手と患者だけでやって来るケースが半数近くを占める」と話す。

 民間が運営する救急車は2011年現在、全国に730台あり、1年に9万3000件の移送が発生した。

 救急車を運営する民間企業によると、患者の移送費は17年間も滞っており、救急車に救急隊員を同乗させるだけの経済的余力がないという。酸素濃度測定機や除細動器(心臓に電気ショックを与える医療機器)などが備えられた特殊な救急車は、10キロの移送で基本料金が5万ウォン(約4200円)、それ以降は1キロごとに1000ウォン(約84円)が徴収される。一方、一般の救急車の基本料金は2万ウォン(約1680円)だ。民間業者である京畿救急のカン・デシク所長は「それさえも、ここで経歴を積んだ救急隊員は119番の救急隊員や病院の職員として皆転職してしまう。民間が運営する救急車は信号無視しても警察が見逃してくれず、罰金を支払わなければならない」と苦しい事情を訴えた。

 亜洲大学病院応急医学科のキム・ギウン教授は「救急治療にも対応できる119番の救急隊員は軽度の患者の搬送に全ての時間を費やしてしまう一方で、重度の患者の搬送が大半を占める病院間の移送にはこうした人材が絶対的に不足している。救急車で軽い患者を搬送する際には患者側に一部の費用を負担させ、民間企業の救急車による重度の患者の搬送には健康保険を適用し、品質を管理していく画期的な改善策が急がれる」と説明した。

金哲中(キム・チョルジュン)医学専門記者
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