【コラム】「朝鮮王朝実録」から読み解く金氏王朝の悩み

 しかしそこには、「血」を強調するしかない、もう一つの理由があった。英祖の後を継いだ朝鮮国王は、ほとんどが正妃の子ではなく、後宮で生まれた王子が王位を継承した。正祖は後宮生まれの王子ですらなく、後宮生まれの王子だった思悼世子(荘献世子。英祖の次男)の息子だ。王室で嫡出・庶出の問題は、統治の権威を打ち立てるのに決定的な役割を果たす。嫡流を受け継いできた朝鮮で、初めて庶出の孫にあたる宣祖が王位(第14代)に上ると、数年も経たないうちに党争が始まったが、これも王権と臣権のパワーゲームの中で嫡出・庶出の問題がそれだけ重大な要素にだったことを示す一例だ。

 金氏王朝も、同じ王朝という点で実録の 影響圏内にあると見ることができる。「白頭の血統」という単語には、異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏にかなわない、金正恩第1書記の出生コンプレックスをどうにかして覆い隠そうとする切迫感がこもっている。それは、逆説的に、金正恩第1書記を軽視する権勢家の動きがただならぬことを示唆している。そこで特に目を引くのは、今回北朝鮮が「白頭の血統」を明文化すると同時に、第7条に「勢道排斥」を明示したことだ。朝鮮の英祖はことのほか「三宗血脈」を強調し、そのおかげで正祖も即位できたが、正祖が即位するなり朝鮮ではすぐさま安東金氏と豊壤趙氏の「勢道政治」が始まった。それは、偶然そうなったのではなく、王室の権威が弱体化したことに伴う、どうしようもない流れでもあった。既に北朝鮮でも、そうした流れが進んでいると見るべきだ。「白頭の血統」や「勢道排斥」などといった表現は、それほどに金氏王朝が揺らいでいるという兆しだ。加えて、それを10大原則に明文化したということは、それほどまでに内部の危機が深刻だということを意味している。

李翰雨(イ・ハンウ)世論読者部長
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