韓国初の宇宙飛行士イ・ソヨンさん、なぜ退職?

 最初のうちは順調だった。全国では多くの人々がイ博士の公演を聞くために集まった。イ博士は2008年からの4年間で235回の講演をこなすなど多忙な毎日を送った。

 しかし、もともとイ博士の専攻は機械工学、その中でもバイオ工学分野だった。航宇研でもこれに関する研究はあるものの、イ博士には関連業務を与えなかった。イ博士には、研究よりも大衆を相手にした活動を願っていたためだ。イ博士はこの生活に多少疑問を感じていたという。航宇研のある関係者は「ほとんどが小・中学生、または一般人に本人の宇宙での経験を話す業務であるため、やや疲れを感じているようだった」と話した。時間がたてばたつほど、大衆の関心も冷めていった。周囲に対し、「一生を宇宙に行って来た思い出だけで生きていくことはできない」と話し始めたのも、この頃からだった。

 そんな中、イ博士は2012年に突然MBAを取得するため米国に留学した。当時も「260億ウォンの食い逃げ」論争が持ち上がった。イ博士が宇宙関連の活動とは程遠い学問をするという点に不満を持つ人が多かったのだ。当時、民主党のチェ・ジェチョン議員がこれを国政監査で批判し、しばらくイ博士関連のニュースがメディアで取り上げられた。

 イ博士は多くを語らなかった。ただ「投資家と科学者をつなぐ役目を果たしたい。昔のように科学技術方面への投資の当為性を主張できない状況」という言葉だけを残した。どんな形であれ、研究を進めていくためには政府や企業からの投資が必要となるわけだが、MBA取得を目指して学ぶことで政策立案者の立場をさらによく理解し、こうした部分で役立ちたいとの意味だった。当時、航宇研の周囲では、イ博士が科学界の現実に少し挫折したようだといったうわさが流れた。

 実は宇宙ステーションでのイ博士の活動も、非常に限定的なものだった。ロシアが建設して運営している宇宙ステーションで、イ博士の活動領域が狭かったためだ。イ博士が宇宙で実施したという18種類の実験は、国内公募を通じて選ばれたとても断片的なものだった。重力が極めて小さい環境での回転運動、表面張力などに関する教育実験などが当時イ博士の行った実験だ。宇宙ステーションのニュースを伝える米国航空宇宙局(NASA)のISSデイリーレポートに、イ博士は「宇宙飛行参加者(SFP-spaceflight participant)」として記載されている。特定の任務がない宇宙飛行士という意味だ。

 科学界からは自省の声が上がっている。発射台も宇宙ロケットもない状況で、宇宙飛行士を誕生させた事業自体が時期尚早ではなかったかというわけだ。ある私立大学の教授は「膨大な宇宙ショー以降、政府と科学技術界が関連分野に関心を持たなかったために発生した問題だが、これをイ博士一人の過ちとして罪をかぶせるのは非常に恥ずかしいこと」と話した。

キム・アサ・プレミアムニュース部記者
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