このため当時も、米国のNLL以北飛行に対し韓国政府は同意したのかという論争があった。文大統領は、米国の軍用機が飛行した翌日の9月24日、首相と閣僚まで集まるNSC全体会議を急きょ招集した。当時、これを巡っても「米国による東海上空の飛行は韓米間の協議を経て準備された対応ではなく、米軍側から事実上通知があっただけなのではないか」という見方があった。ウッドワードの記述が事実であれば、米国側の措置に対する不満を示すためNSCを開催したとみることもできる。
またウッドワードは同書で、米中央情報局(CIA)の韓半島専担部局である「コリア・ミッション・センター」は、北朝鮮の政権交代を念頭に置いてつくられた-と主張した。17年1月のトランプ大統領就任直後、マシュー・ポッティンジャーNSCアジア上級部長は「北朝鮮を核保有国として受け入れることから、CIAの秘密工作や軍事攻撃を通した政権交代まで」九つのさまざまなオプションを提示したという。トランプは「最大の圧迫」を選んだ。
当時CIA局長だったマイク・ポンペオは、CIAで29年勤務する間、北朝鮮に対し最も成功した諜報(ちょうほう)工作を行って引退していたエージェントのアンドルー・キムと会った。アンドルー・キムは「CIAの才能ある人間は(情報)収集、分析、秘密工作という異なる部門に散らばっている。それらの人材を一つのテントの下に集めなければならない」と提案した。ポンペオは「(CIAに)戻ってきて、コリア・ミッション・センターを作る気はあるか」と、アンドルー・キムにあらゆる支援を約束し、ついに彼がコリア・ミッション・センター長になることに同意した、とウッドワードは明かした。
これについてウッドワードは「キムはトランプ大統領が工作を要求し、承認する公式命令に署名した場合、北朝鮮の指導者を転覆させる秘密工作を計画した」と記した。コリア・ミッション・センターは北朝鮮の体制転覆を念頭に置いてつくられたというのだ。ウッドワードは取材源を明かさなかったが、記述の流れからみてCIA内部の取材源だと推定される。