【萬物相】「申栄福体」という不条理劇

 ところで驚くべきことに、国家情報院(国情院。韓国の情報機関)が6月、創設60周年に合わせて新たに公開した院訓「国家と国民のための限りない忠誠と献身」も申栄福だという。申栄福は統一革命党事件で1968年に無期懲役を言い渡され、20年の服役後に出所した人物だ。スパイの疑いがかけられていた。こんな人物の書体を、スパイを捕まえる国情院の院訓に使ったのだから、これも「南北イベント」になるのか。そもそも国情院の看板を下ろすという話はどうなったのか。そして今度は警察が「最も安全な首都治安、尊敬され愛されるソウル警察」の文字を申栄福体で書いたという事実も判明した。警察は国情院からスパイ捜査権を移管された。世間にあまたある書体を放っておいて、わざわざスパイの前歴がある人物の書体を、ほかならぬ国情院と警察が自らの象徴にするのか。

 統一革命党は、民主化とは無関係に、北朝鮮のために暗躍してきた集団だ。文大統領は統一革命党関係者と親しかったり、ことのほか気遣ったりしていた。すると国情院と警察まで申栄福体を使った。ここに韓国国民の税金が使われたのだろう。不条理劇とは、自己矛盾的な属性と、それによるアイデンティティーの混乱を皮肉った演劇ジャンルだ。舞台上で繰り広げられることなのに、韓国政府では現実になった。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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