北朝鮮のハマス式奇襲攻撃を防ぐには【寄稿】

 北朝鮮の長射程砲の脅威に対し最も脆弱(ぜいじゃく)な部分は、韓国軍の対北監視偵察(ISR)能力だ。米国は数百基の偵察衛星を運用し、韓国軍と在韓米軍はさまざまな空中偵察アセットを保有しているが、北朝鮮軍の動向をリアルタイムで連続的に探知するのは不可能で、探知の頻度を増やして情報失敗の可能性を減らせるのみにとどまる。対北ISR能力を画期的に増強してもまだ足りないところに、これをむしろ悪化させたのが、まさに2018年の「9・19南北軍事合意書」だ。この合意書の致命的な毒素条項は、軍事境界線を中心に南北それぞれ20-40キロ幅の飛行禁止区域を設定した1条3項だ。一見、平和の維持に役立つと錯覚しやすい美辞麗句に満ちているが、その実体は、対北監視・偵察の死角地帯を広げることによって北朝鮮の奇襲攻撃を容易にしてやるところにある。北朝鮮の長射程砲陣地に対するISR能力は、韓国の偵察アセットの航跡が北上すればするほど増加する反面、南下すればするほど減少し、その分だけ、北朝鮮砲兵が隠密裏に奇襲攻撃を準備する空間も増える。そうすると軍事合意書は、平和に寄与するどころか、北朝鮮が平和破壊を試みる場合に、事前探知を避ける便宜を提供する役割を果たすことになる。

 軍備統制合意の根本目的は、敵対勢力間の緊張を緩和し、武力衝突を防止するところにある。これは、軍事活動の透明性向上と信頼構築を通して可能になる。ところが南北軍事合意は、こうした軍備統制の基本原理に逆行し、北朝鮮の軍事活動の透明性をむしろ低下させるように設計してある点が特異だ。

 北朝鮮は既に合意の趣旨を否定する挑発を行ってきているだけに、韓国政府がこの合意を一方的に順守するのは愚かなことだ。わざわざ破棄もしくは効力停止宣言のような手続きを経る必要はなく、事実上死文化されたものと見なせば済む。

 北朝鮮が非核化を拒否している今の状況で、軍事的信頼構築と敵対行為防止に必要な軍事合意は、飛行禁止区域の設定ではなく、1992年にNATO(北大西洋条約機構)とワルシャワ条約加盟国間で締結された「航空偵察自由化条約(オープンスカイズ条約)」をモデルとした南北間の相互偵察制度の導入だ。また、海上緩衝区域と陸上の軍事訓練禁止区域を撤廃する代わりに大規模な軍事訓練の事前通報と相互参観を認める必要がある。

千英宇(チョン・ヨンウ)元韓国大統領府外交安保首席・韓半島未来フォーラム理事長

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