「TSMCの半導体は『護国神山』」 中国が台湾に安易に侵攻できない理由

 1月17日、中国の軍用機11機が台湾海峡の中間線を越えて台湾の空域を侵犯した。台湾総統選で民主進歩党(民進党)の頼清徳氏が勝利して4日後だった。台湾独立と反中感情を前面に出した民進党の勝利で中台の緊張が高まり、経済的な後遺症が強まるのではないかという懸念が存在する。中国が台湾に対する圧迫を強め続ければ、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争などに続き、世界経済にとってもう一つの導火線になり得るとの指摘だ。

【グラフ】中国による台湾封鎖時と侵攻時の経済的影響

■中国による台湾侵攻の可能性は

 国内外の専門家はひとまず5月20日に予定される総統就任式までの期間に中国の台湾に対する圧迫が強まるとみている。「一つの中国」原則を貫き、新政権の勢いをそごうとするのではないかという見方だ。今回の選挙結果を分析すると、頼氏は559万票(40.1%)を獲得し、親中路線の中国国民党の侯友宜氏(467万票、33.5%)と中道・台湾民衆党の柯文哲氏(370万票、26.4%)を破って当選した。台湾では2000年から8年ごとに民進党と国民党の間で政権が交代してきたが、民進党の2期8年にわたる蔡英文総統から親中勢力が政権を譲り受けることを期待した中国は失望が大きかったはずだ。

 反中派政党の3期連続で政権を握ることで、中国の圧迫はさらに強まるとみられている。中国は選挙前にも「頼氏が当選すれば、両岸関係の平和を保障できない」とけん制。選挙直後も「一つの中国」を強調し、威嚇するかのような発言が相次いでいる。中国の王毅外相は14日、エジプト・カイロで記者団に対し、「台湾独立は過去にも成功したことがなく、未来にも成功しない。台湾独立は『死の道』だ」と述べた。

 ロシアがウクライナに侵攻した前例があるため、中国の台湾侵攻という事態はあり得ないことではないという見方もある。フィナンシャルタイムズは、中台関係をロシア・ウクライナ関係と比較したコラムで、「プーチン大統領と習近平主席は、いずれもウクライナと台湾の土地を正当に自国の領土と考えている」とし、「台湾人が自らを『中国人』ではなく中『台湾人』と考える傾向が強まっていることも、北京の懸念が高まる要因だ」と指摘した。ただ、同紙は台湾海峡に戦雲が漂えばロシア・ウクライナ戦争とは異なり、米国が直接参戦する可能性が高く、ロシアの陸上侵攻とは違い、国は台湾という島国に上陸作戦を展開しなければならないと点からみて、台湾とウクライナの運命はそれぞれ異なってくると説明した。

■半導体は護国神山

 経済的側面で中国が「台湾侵攻」のカードを切りにくいとみられる理由に「半導体」がある。台湾も自国企業である世界最大のファウンドリー(半導体委託生産)企業、台湾積体電路製造(TSMC)を「護国神山(国を守る神聖な山)」と呼び、重要事業と位置づけている。半導体は台湾の経済安全保障面で重要との立場だ。頼氏は当選直後、「半導体は世界共通の資産だ」とし、「台湾だけでなく中国と国際社会が共に半導体産業を大切にしてもらいたい」とも述べた。

 中国にとっては、米中対立で半導体需給が困難に直面しており、台湾製半導体は重要にならざるを得ない。世界の半導体サプライチェーンで大きな割合を占める台湾を封鎖したり侵攻したりすれば、中国経済にも被害を与える「両刃の剣」になり、大打撃となるのは避けられないからだ。

 中国の台湾侵攻は、両国経済に壊滅的な打撃を与えるだけでなく、世界経済にも大きな打撃を与えかねない。ブルームバーグ・エコノミクスは最近、中国が台湾に侵攻した場合、台湾は戦争1年目に国内総生産(GDP)の40%を失い、中国もGDPの16.7%が蒸発しかねないと分析した。両国のGDPへの損害だけでも約4300兆ウォン(約477兆円)に達し、韓国のGDP(約2200兆ウォン)の2倍に相当する。国際サプライチェーンへの依存度が高まった状況で、戦争の火種は台湾海峡だけでなく、周辺国にも大きな打撃を与え得る。特に韓国と日本はそれぞれGDPが23.3%、13.5%減少し、中台以外で最も大きな打撃を受けると予想した。

■中国のメンツも守った中途半端な勝利

 中国の台湾に対する経済的圧迫が限定的なものにとどまるとの見方が出る理由の一つは、今回の選挙で中国がメンツを保ったためだという解釈もある。今回の台湾総統選と同日に行われた立法院(国会)の選挙で、親中系の国民党が全議席(113席)のうち52席を占め、改選前の37席から大きく躍進し、「与小野大」のねじれ状態をつくった。民進党は立法院では国民党を下回る51議席にとどまった。結果的に台湾住民が総統は反中政党に、立法院には親中政党にかじ取りを任せた格好だ。韓国対外経済政策研究院のヨン・ウォンホ経済安保チーム長は「台湾立法院の選挙は経済的路線を選ぶという意味合いが濃い」とし、「立法院で親中派の議席が増え、中国にとっても今回の選挙結果はそれほど失望的ではなくなり、台湾に経済的圧力をかける誘因も小さくなった」と説明した。

 台湾中央研究院の金珍鎬(キム・ジンホ)教授は「中国はこれまで台湾と片手で握手し、片手で殴るような政策を繰り広げてきたが、台湾に対して強硬策を採るほど台湾の反発をあおり、米国が介入する名分が大きくなるということに気づいている」とし、「中国が自国民のための政治的パフォーマンスとして台湾に対する武力挑発に出る余地は依然としてあるが、経済的利益を考え、融和策を前面に出すと考えている」と話した。

チェ・ジェウ記者

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  • ▲1月13日に行われた台湾総統選で勝利した民進党の頼清徳氏が台北市内の党本部前で支持者の声援に応えている/聯合ニュース
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