韓国で暮らして今年で7年半になるという米国人ジェイソン・ストラーダさん(35)は初めて飲食店に行った時の印象を「うるさすぎ」と言った。イギリスのBBC放送などに寄稿するフリージャーナリストのストラーダさん。「店の客たちは、静かに食事をしているほかの客に対して全く配慮がないように見えた」という。韓国語は敬語と、敬語を入れないぞんざいな言葉を相手や状況によって使い分ける言語だが、それが分かるようになった時、彼の目に映った韓国の飲食店の風景はあらためてショッキングだった。「韓国人は店員たちに非常に横柄で無礼な振る舞いをすることに気付いた」からだ。

 外国人の目に映る韓国の飲食店の様子はどんなものなのだろうか。本紙取材チームは、外国人特派員・留学生・駐在員のうち韓国語でコミュニケーションが取れる人々に「韓国の飲食店で経験した最もショッキングな瞬間」を尋ねた。韓国語における敬語の使い分け概念が分かっている彼らがまず挙げたのは「客が店員に対し平気で横柄な言葉を使うこと」だった。

 2010年から延世大学国際大学院で学んでいるオランダ人女性ポイティング・ラムさん(24)も同じ考えだ。「韓国ではよく知らない間柄なら自分より若い人に対しても敬語を使うと聞いたのに、なぜ飲食店ではそうしないのか。いつも礼儀正しい韓国人の友達が、店員に対しては肩をたたきながら横柄な言葉を使うのを見てがっかりした。だから『どうしてそんなに悪い言葉遣いをするの?』と尋ねた」

 韓国人は自分の国のことを「東方礼儀の国」と言って胸を張るのに、なぜ飲食店に行くとひどい言葉遣いになるのだろうか。ストラーダさんは「韓国社会の儒教的ヒエラルキー(階級意識)のせいだろう」と言った。「韓国の中年男性たちは『自分は命令する人』『自分はいい会社に勤めている人』『あんたはただの食堂のおばちゃん』と区別しているようだ。飲食店の店員だけでなく、サービス業に携わる人々に対してはすべて、そのように接している気がする。飛行機でもタクシーでも同じだ。韓国の飲食店の若い店員たちはよく考えもしないで『できません』と繰り返し、首を横に振るが、おばちゃんたちのサービスは最高(great and professional)だ。韓国に住んでいる間、一度も食堂のおばちゃんたちともめたことはない。ああいうベテラン店員たちに対して客がぶしつけな口を利くのは、客の自分たちの方が優れているという優越感のせい」と言った。

 韓国人と同じアジア文化圏の日本人たちは、韓国の飲食店で一番驚いたことについて、客が帰った後の光景を挙げた。昨年交換留学生としてソウルに来た東京外国語大学のナカニシ・サナリさん(22)は「韓国に来た最初の日、飲食店で客が帰った後のテーブルにタバコの空箱や(ティッシュ代わりの)トイレットペーパーが散乱していたり、汁がこぼれて汚れていたりしたのを見て驚いた。韓国の飲食店は『迷惑をかけてもいい所』なのかと思った」と言った。日本では客が食べ物をこぼすと、自らティッシュやナプキンでふき、1カ所にまとめてから店を出るそうだ。

 また、外国人たちは「ほかの客に迷惑をかける韓国人のマナーも納得しがたい」と口をそろえた。毎日新聞の大貫智子ソウル特派員(38)は「禁煙の飲食店でタバコを吸うとわがままを言う客は理解できない。外交官などエリート層の人々でも『いいだろ?』と言って紙コップを灰皿にして吸っている」と言った。ラムさんも「隣の席の客が食事をしているのに、タバコの煙を吐きだしているのを見ると、もはや食事どころではなくなる。茶わんに吸い殻を捨てるのは本当におぞましいくらい」と語った。

 ストラーダさんは「子どもが多い飲食店は韓国では避ける」とも言った。「子どもが走り回って大声で騒いでも韓国の親たちはきちんとしからない。米国では親が子どもを外に連れ出したり、トイレに連れて行ったりしてから厳しくしかり、『こんなに騒いだから今日は家に帰ってもテレビゲームはさせない』と罰を与える。公共の場でのマナーに関しては米国の親たちは厳しくしつける」とのことだ。

 酔客が繰り広げる騒々しく殺伐とした風景は、たとえ韓国での生活が10年を超えていたとしても、外国人には違和感があるという話も出た。韓国の証券会社に勤めて10年になる英国人は「韓国の飲食店には酔っぱらいが本当に多い。酔ってツバを吐いたり汚い言葉でケンカしたりするのはヨーロッパでは考えられない」と言った。デンマークのオールボー大学経済学科を卒業した留学生ジャスパー・マドセンさん(23)は「店の中で『ここ早く(注文取って)!」という声は客が酔えば酔うほど大きくなり、店員を呼び出すベルも鳴りまくるようになる」と嘆いた。

■店員が客の料理にツバ吐いたとしても…

外国人「客と店員は平等な立場」

 韓国の飲食店利用文化に接した外国人たちは「『お客様は王様だ』という考え方が見られる韓国人の態度は合理的でない」と話す。日本では「お客様は神様です」と言うが、韓国では『お客様は王様だ』という。オランダで両親が飲食店を経営しているというラムさんは「私の国でも客がたまに無理な要求をすることがある。そういう時はできるだけ合わせようとする。だが、店員と客は基本的に金とサービスを交換する契約関係。韓国で店員が横柄な言葉を掛けられたり、汚い言葉を浴びせられたりしても、何も言わず我慢しているのは理解できない」と言った。

 マドセンさんは「デンマークでは客があまりにも横柄なら店員がサービスをせずに客を追い出す。サービスを提供する店員が客を王様だと考えるのは合理的だが、客が自分のことを王様だと思っているのには同意できない」と言った。ストラーダさんは「米国でも『客は常に正しい』というサービスの原則があるが、客は『店員も人格的に平等だ』という考え方に基づいて接している。店員をぞんざいに扱えば、その店員は客の料理にツバを吐くかもしれないことを誰が知っているだろうか」と問い返した。

ホーム TOP