ソウル地方警察庁広域捜査隊の刑事たちは当初、男(44)の話を信じなかった。ソウル市江東区千戸洞の風俗街で売春宿3カ所を運営していて摘発された男が「1年に自分一人で稼いだ純利益は10億ウォン(約9900万円)を超える」と供述したからだ。だが、男の資産を調べていた警察は、驚きの余り、開いた口がふさがらなかった。男は京畿道城南市に広さ149平方メートルのマンションなど3戸の住宅を所有し、同道広州市には1157平方メートルの農地付き住宅も所有していた。契約している保険は37件に上り、預金の積み立ても17件あった。父親のために健康保険を契約し、子どものための貯蓄もしていた。また、1台数億ウォン(数千万円)のフェラーリ・カリフォルニア、ポルシェ・パナメーラ4、アウディRシリーズ、ベンツ63AMGなどの高級外車12台を乗り回していた。

 警察は「男は韓国で有数の暴力団『城南新総合市場派』の行動隊長だ、と名乗った。男は2000年代初めから個人的に売春宿を運営していたとされる。だが当初は警察に摘発されることもあり、稼ぎもそれほどよくなかったという。

 男が本格的にまとまった金を手に入れるようになったのは、2000年代半ば、城南市で売春婦たちを集中的に動員するようになってからだ。男は「金を稼ぐためには若くてきれいな女性たちが欠かせない」と考え、売春婦の引き抜きに力を入れるようになったという。城南市一帯の遊興酒店(日本のキャバクラのような風俗店)で酒を飲み、ママと親しくなった上で、女性従業員の情報を入手した。警察は「男は経済的に苦しい女性たちを選び、ブランド品のバッグを買い与えたり、スキー場に連れていったりするなど、好感を持たせた上で自分の店に移るようそそのかした」と説明した。新たに女性従業員が入ってくると売り上げが増え、男はわずか数年間で店を3カ所に増やした。営業がうまくいっていた男に対し、別の業者が圧力を掛けると、男は手下の暴力団員らを呼んで勢力を誇示したという。

 男は「おじさん」と呼ばれる売春宿の管理担当者4-6人と、女性従業員10-20人を雇い、2009年3月から先月まで違法な売春行為をしていた。売春をする女性は1日に少なくとも5人、多いときは10人の客を相手にしていたという。女性たちは店で寝泊まりし、外出する際には男性従業員の監視を受けた。女性たちは男から先払い金として3000万ウォン(約300万円)を受け取っているが、その期間を満たしても、さらに無条件で3年間働かなければならないという「奴隷契約」を結んでいた。女性たちが体調不良を訴えると、「注射おばさん」と呼ばれる女(44)=逮捕済み=を呼んで、医師や看護師の免許がないにもかかわらず、栄養剤や抗生物質を注射させた上、女性たちに売春を命じた。「俺は全国一のやくざだ。逃げたら地の底まで追いかけて殺してやる」「結婚式に押し掛けて、どういう商売をしていたか、新郎やその両親に暴露してやる」などと脅すこともあった。花代(売春代)は男と女性たちが5対5で分けていたという。警察は「売上金の総額は100億ウォン(約9億8900万円)に達する」と説明した。

 男は多重債務者ではないにもかかわらず、本人名義の銀行口座をほとんど使わなかった。全ての資金は妻(44)が管理していた。警察の追跡を逃れるため、偽装離婚もしていた。妻は銀行を毎月8-10回訪れ、1回につき2000万-6000万ウォン(約200万-590万円)を現金で預け入れていたという。警察が先月3日、城南市にある男のビラ(低層マンション)に踏み込んだとき、室内にあったつぼには、売春による収益の管理に使われていたとみられる通帳約60冊が入っていた。また室内のあちこちから、1万ウォン札や5万ウォン札の札束が出てきた。警察は、売春を強要・あっせんした容疑などで男ら2人を逮捕し、妻や女性たちに金を貸していた業者(35)など16人を書類送検した。

ホーム TOP