京畿道金浦市の南北軍事境界線近くにある愛妓峰を管轄する海兵隊第2師団は、今月15-16日にかけて展望台にある塔を撤去したが、国防部(省に相当、以下同じ)はしばらくその事実を公表していなかった。後に撤去がメディアを通じて報じられると、国防部の担当者は「昨年11月に韓国軍の主要施設に対する安全診断を行ったところ、問題の塔はボルトやナットの継ぎ目部分に問題があり、また地盤も緩んで倒れる危険があったため撤去に踏み切った」と説明した。しかしその時点では誰もこの説明を素直に受け入れず「今月30日に予定されていた南北高官級協議を前に、北朝鮮との関係に配慮した韓国政府からの指示ではないか」と推測していた。また当時は北朝鮮から撤去の要求があったわけでもなく、ただ単に韓国軍が一方的に塔を撤去したことから「北朝鮮への屈従だ」といった批判も相次いだ。

 ところが後に明らかになった事情は完全に違っていた。塔の撤去が22日にメディアを通じて公表された直後、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は大統領府での会議で「塔が撤去された理由は何か」「一体誰が決定を下したのか」と関係者を問い詰め叱責(しっせき)したという。要するに大統領は塔の撤去を事前に知らされていなかったのだ。

 愛妓峰展望台にあった問題の塔が設置されたのは1971年で、その位置は北朝鮮からわずか3キロしか離れておらず、しかも高さ18メートルと巨大な上に愛妓峰は海抜165メートルという高地だ。そのためクリスマスの時などに電飾を点灯すると、その光は開城からもはっきり見えたことから、北朝鮮は塔について「宣伝用の施設」などと激しく非難してきた。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時は一時、電飾の点灯を中断したが、2010年に北朝鮮による哨戒艦「天安」撃沈や延坪島砲撃が相次いだことで、塔の電飾は再び点灯された。当時、北朝鮮は塔に砲撃を加えるなどと脅迫することもあった。

 このような経緯から問題の塔は最近のビラ問題と同じく、南北が対立する大きな要因の一つとなっていた。塔を撤去するとなれば、北朝鮮に誤ったメッセージを送ることにもなりかねず、また韓国国内で大きな問題となることは誰の目にも明らかだった。このような重大な決定を現地の韓国軍部隊が上部に報告もせず、勝手に決めて実行に移していたのだ。たとえ塔がその部隊の管轄地域にあったとしても、これほどまでに前後の状況を理解せず、判断力が欠如しているようでは、国民は韓国軍に信頼を寄せることなどできるだろうか。国防部の韓民求(ハン・ミング)長官と統一部の柳吉在(リュ・キルジェ)長官は国会で「愛妓峰展望台にある塔が撤去された事実はメディアでの報道を通じて知った」と述べた。今回の問題を受け、韓国政府は対北朝鮮政策の立案、執行、管理に大きな問題が生じている事実を認め、より大きな危機感を持つべきだ。

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