マーク・リッパート駐韓米国大使に刃物で切り付けた金基宗(キム・ギジョン)容疑者(54)はこれまでに4回も公衆の面前で暴力行為により騒動を起こしていたことが分かった。このため、韓国社会は事実上、金容疑者のような極端な暴力主義者たちに寄生の余地を与える「土壌」があったのではないかとの指摘も出ている。専門家は「司法の甘い処罰や一部政界のあいまいな姿勢が極左過激派に温情的な土壌を与えてきた」と分析する。東国大学のパン・ヒソン法学部教授は「極左過激派に対する温情的な姿勢を改めなければ、今後も『第2・第3の金基宗』が現れるかもしれない」と警告した。

 金容疑者は2010年7月、在韓日本大使に向かってコンクリート片2個を投げ付けたが、有罪判決が出るも執行猶予が付いていた。昨年2月には朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長の講演会で当時の西大門区議会議長の胸を拳で殴り、頬をたたいたが、罰金70万ウォン(約7万6000円)という判決だった。さらに、昨年5月にも日本大使館前で警察や日本大使の車に向かって靴と卵を投げているが「嫌疑なし」で釈放された。

 専門家は、韓国社会には長年にわたり民主化闘争が繰り広げられてきた歴史的経緯があるため、極左過激派の危険性を見過ごし、寛大に対応してきたことが問題だった、と指摘する。ソウル南部地検長を務めたコ・ヨンジュ弁護士は「民主化を成し遂げて30年になろうとしているが、依然として過去に浸り、現実とは懸け離れた行動をする人があまりにも多すぎる。韓国社会は過去の物差しに基づいて彼らの処罰を軽く済ませる傾向があり、左派支持者も彼らを『英雄』扱いしていることが今の社会混乱を招いている」と言った。

 2009年5月、労働組合「貨物連帯」が大田市で行ったデモでは、民主化以降しばらく見られなかった「竹やり」が登場した。デモ隊は凶器の竹やりを振り回し、警察官約100人が負傷した。デモを主導した8人が裁判にかけられたが、一審で実刑が言い渡されたのは3人だけだった。裁判所は残り5人については「加担の度合いが低く、反省している」として懲役1年6月、執行猶予2年を言い渡した。

 11年に「済州海軍基地建設反対デモ」を主導したムン・ジョンヒョン神父は警察官に暴力を振るい、護送車の上に乗って車を破損させたとして有罪になったが、懲役8月、執行猶予2年で確定した。同年にソウル・光化門一帯で行われた自由貿易協定(FTA)反対デモでは、デモ隊鎮圧のため出動した鍾路警察署長に対し暴力を振るった男(57)が執行猶予で釈放された。

 自由民主研究院のユ・ドンリョル院長は「違法な過激デモを厳しく処罰する先進国とは違い、韓国の司法は甘い処罰で済ませる。左派も判決で処罰が軽いことを当然だと思っている」と述べた。だが、米国では公務を執行する警察官に対し暴力を振るったり、凶器で威嚇したりすれば、銃の使用が可能となる。米カリフォルニア州の場合は「三振アウト制」を適用、警察官に対する暴行は1回目なら最高で懲役4年の刑となる可能性があるが、2回目は懲役期間が2倍に増え、3回目なら少なくとも懲役25年、最高で終身刑もあり得る。

 英国は、公共秩序法に基づき、デモ参加者のうち12人以上が暴力を振るったら暴動罪に準じて処罰、警察の逮捕に抵抗して警察官を負傷させた場合は終身刑が言い渡される可能性がある。

 一部の政界関係者が極左過激派を自分の身内のように擁護するのも問題だ。08年の「米国産牛肉輸入反対デモは政権退陣を訴える暴力デモに変質したが、当時の統合民主党・民主労働党・進歩新党などの野党関係者らは毎晩街頭デモに参加、違法行為をあおった。

 金容疑者は日本大使に向かって外交問題に発展しかねない違法行為を犯したのにもかかわらず、12年に国会記者会見場で会見を開き、犯行の正当性を主張することができたのも、最大野党・新政治民主連合の禹相虎(ウ・サンホ)議員や姜智遠(カン・ジウォン)元民主党副報道官など=当時=がそうした場を設けたからだった。

 明知大学のシン・ユル政治外交学科教授は「政治家たちが人気取りで民族主義を装った極左過激派の後援者役をするのは、韓国政治の恥ずべき面だ」と述べた。

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