外国人の目に映る韓国は、イルカほどの図体を持ちながらも依然として「エビ・コンプレックス」にとりつかれた国だ。大国のはざまで「クジラのけんかでエビの背中が裂ける(強い者同士の争いに弱い者が巻き添えを食って損害を被る)」経験を繰り返すことで生じた、諦念(ていねん)的な集団心理とも言うべきか。朴槿恵(パク・クネ)大統領が夏休み中に読んだという書籍『韓国人だけが知らない大韓民国』を著したエマニュエル・パストリッチ教授は、エビ・コンプレックスについて「周辺大国の顔色をうかがわねばならない弱小国であることを踏まえた、常に気を付けていなければ国が滅びかねないという自虐的恐怖心」だと説明した。

 英国人記者のダニエル・チューダー氏も『奇跡を起こした国、喜びを失った国』という書籍で「長きにわたり大国の橋頭堡(ほ)や戦略的資産として扱われてきたせいで、韓国では『味方でなければ敵』という考えに基づいた民族主義が発達している」と指摘した。

 本当に、韓国特有の自虐的なエビ・コンプレックスがあるのだろうか。韓国の置かれた地政学的な立場は、ほかの国よりもはるかに厳しいのだろうか。今、地球上で一番「熱い海」となっている南シナ海を見ると、必ずしもそういうわけではなさそうだ。中国はこの海域の大半が自国の海だと強引な主張を繰り広げている。米国は南シナ海での航行と飛行の自由を名分に、中国の企てを阻止しようとしている。

 中国は、南シナ海の領海をめぐる紛争を多国間の場ではなく2国間で解決すると言い張り、こうした立場を支持するよう周辺国に圧力をかけている。自国だけで中国に張り合えない国々は、米国と連携して対応している。だが、これらの国にとって中国が近隣国であり、重要な貿易相手国であることに変わりはない。国益に基づく原則を固守しながらも、米中のはざまで苦悩しているように見えるのは、こうした事情があるためだ。

 特に大きな圧力を受けたのがシンガポールだ。シンガポールにとって、中国は3番目の貿易相手国だ。その上、人口の多くが中国系のため、中国から「小さな中国」という扱いを受けることもある。2010年にベトナムで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会合で、クリントン米国務長官(当時)が演説で南シナ海問題への本格介入を宣言したとき、中国の楊潔チ外相(同)は反論の演説をしながらシンガポールの外相をじっと見つめた。そして「中国は大きな国であり、ほかの国々は小さい。それがファクト(事実)だ」と述べた。だが、シンガポールはこうした圧力をはねのけ、ASEAN諸国と共に航行の自由という原則を貫いた。

 インドは米中関係が複雑化する中で自国の価値を上げた。「中国をけん制する」という点で一致し、米国に一段と接近した。だがそうしながらも、米国の心変わりを常に懸念している。中国に対し「包容」と「けん制」の両面でアプローチする米国が、いつ中国との距離を縮め、インドに冷たくするか分からないためだ。

 近ごろ国際政治が不安定に見える理由の一つは、米中関係が定まっていないためだ。両国の関係は冷戦時代の米ソ対決、あるいは19世紀末に軍備競争を繰り広げた英独関係をほうふつとさせ、一方で第2次世界大戦を前後して権力が英国から米国に移った時期をも思い出させる。米中関係が安定していないため、その間に挟まれた国々は、エビ・コンプレックスがないとしても不安にならざるを得ない。

 南シナ海での自由な航行と飛行が国益にかなっているのに、米国と足並みをそろえない理由はない。だが米国は、米中のはざまで圧力を感じる国々の多くが、中国からの経済・軍事的圧力に弱いということを忘れてはならない。中国の強弁をけん制する努力は必要だが、関連国が米中対決で「反中連帯」に動員されるかのような気持ちを抱かないよう、配慮する必要がある。米中の間で選択を迫られているかのような負担を感じるのは、根強いエビ・コンプレックスのせいではなく、米国外交のビジョンが緻密(ちみつ)さに欠けているせいかもしれない。

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