▲今月15日午前、東京近郊の小都市で、18年間自分の部屋に引きこもっていたAさん(41)を、精神科病院に入院させるための業務が行われた。押川剛さん(48)が率いる移送スタッフたちは、パンツ1枚で家にいたAさんに近付いた。Aさんが刃物を振り回す事態に備え、スタッフたちは首に厚いプロテクターを巻いていた(写真左)。その後、服を着せてストレッチャーに乗せたAさんをスタッフたちが民間の救急車に乗せた。警察官もその様子を見守っていた(写真右)。写真=金秀恵(キム・スヘ)特派員

 東京近郊の小都市に住むAさん(41)は、23歳のときから自分の部屋に引きこもり、18年もの間、自宅の外には足跡すら残さず、40代に突入していた。3坪(約10平方メートル)の部屋で、70キロほどのバーベルを用いて筋力を鍛える一方、家の中のあちこちにマジックで「低能者」と落書きしていた。また、携帯電話を使ってインターネット通販をし、同じ物を大量に購入した。70代の両親には「俺がこうなったのはあんたたちのせいだ」「能力のある俺が、能力のないあんたたちを支配する」と言い放っていた。家族の話では、Aさんには精神疾患の疑いがあった。

 そんなAさんを精神科病院に入院させるため、今月15日朝、1台の民間の救急車がやってきた。屈強な4人のスタッフは、首に厚いプロテクターを巻いていた。Aさんが刃物を振り回した場合に備え、頸(けい)動脈を守るためだった。精神障害者を移送する“説得のプロフェッショナル”、押川剛さん(『「子供を殺してください」という親たち』等著書多数)は報道陣に対し「緊迫した状況では、記者たちを守れる余裕はない。自ら安全を確保してほしい」と告げた。2台のパトカーも現場に到着した。近所の高齢の女性が、怖くなったのか、涙を見せた。「数十年間近所付き合いをしてきたが、この家にそんな息子さんがいたとは知らなかった」

 中年になった引きこもりが、日本社会で「時限爆弾」と化している。1980-90年代に学校へ行かなくなり、部屋に引きこもった子どもたちが、今や40代に差し掛かっている。この問題が初めてクローズアップされたときは、「10代の問題」として軽視されていたが、それは誤っていたという声が出ている。2010年に内閣府が行った調査によると、日本全国の引きこもりは69万6000人に達し、このうち26.9%が35歳以上だった。その多くがそのまま40代に突入したと推定される。

 押川さんは「20歳ごろに引きこもりだった人たちのうち、約半数が40歳を過ぎても引きこもりを続けている。その全てが危険な精神障碍者だとは言えないが、多くの人が年を重ねるほど攻撃的になり、まるで「家庭内ヤクザ」のように君臨している」と語った。

 日本では現在、日本財団など複数の公益法人や市民団体が、引きこもりの社会復帰を手助けし、政府や地方自治体が直接・間接的に支援している。だが、本人と家族の意思によらなければ意味がない。政府が無理やり入院治療を受けさせたり、社会復帰の訓練をさせたりすることもできない。

 年老いた両親が、引きこもった子どもの面倒を見られなくなった場合、子どもは自宅に閉じこもったまま餓死するか、食べ物を求めて家出し、事件を起こすようになる可能性もある。一方、耐えられなくなった家族が子どもに暴力を振るうケースもある。引きこもりの原因は依然として不透明だ。Aさんの両親は経済的には余裕があったが、夫婦関係は冷え込んでいた。父親(73)は「妻が息子を甘やかしたからこうなった」と主張し、母親(72)は「夫が無関心だったせいで息子がひねくれた」と言い張った。

 Aさんは両親にとって、「息子」ではなく恐怖の対象だった。Aさんは多くの規則を作った。「家の中で飯が食えるのは俺だけだ。俺が起きている間は誰も部屋に入ってくるな。毎日、俺がメールをした通りに買い物して、冷蔵庫に入れておけ」。このような規則に反すると暴言を浴びせ、時折殴打したり、刃物を振り回したりした。両親は息子の部屋に入ろうという気も起きなかった。早くから専門家に相談しなかった理由について、移送スタッフの一人は「体裁を気にしていたようだ」と話した。見るに見かねたAさんの兄が昨年12月、押川さんの元を訪れ、助けを求めた。

 韓国の専門家たちは「他人事ではない」と指摘する。韓国の引きこもりは20万-30万人程度と推定されている。2012年には引きこもりによる犯罪が相次いだ。4年間引きこもっていた男(当時27歳)が、訳もなくスーパーの女性店主を刃物で切り付け、重傷を負わせた。また、ソウル市冠岳区新林洞の考試院(受験生向けの貸し部屋)に数年間引きこもっていた男(当時30歳)も、かつての職場の同僚を訪ね、刃物で切り付けた。

 押川さんたちはAさんの両親を家の外に出させた後、Aさんが一人でいる家の中に入った。パンツ1枚で朝食をとっていたAさんは一切抵抗できなかった。押川さんはAさんに向き合い、「今のままの生活をしていたら、健康によくないし、命を守れない。病院に行こう」と説得し、民間の救急者に乗せた。Aさんはその際にも、気が抜けた様子でこうつぶやいていた。「消さなきゃいけないのに。消さなきゃいけないのに。俺の携帯を見るんじゃない」

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