インスタントラーメンで知られる日清食品ホールディングス(HD)が先ごろ「2020年度に時価総額1兆円」という目標を発表した。現在の時価総額は6320億円。5年以内にこれを1兆円に引き上げるには、全社員が気を引き締めて全力で取り組まねばならない。どうすれば会社の目標を社員たちに意識させられるかを考えた末、一つのアイデアが生まれた。「株価連動型社員食堂」だ。

 日清食品HDの東京本社ビルは新宿にあり、社員食堂はその2階だ。規模は167席、322平方メートルで、普段は主菜、副菜、味噌汁、カレー、麺類、デザートなどをビュッフェスタイルで提供している。だが1カ月に1回、メニューががらりと変わる。

 自社の前月の月平均株価を当月の月末日終値が上回った場合、翌月に2日間「ご褒美デー」として世界の珍味をふるまうなどのイベントを実施する。反対に前月の月平均株価を下回った場合は翌月2日間を「お目玉デー」として、揚げパン、おでん、牛乳、冷凍ミカンといった1950年代の給食のような質素なメニューを出す。

 「ご褒美デー」は前もって予告されるが、「お目玉デー」は予告なしに実施されるため、運良く外で食べたりしない限りは避けられない。この社員食堂の名前は「カブテリア」。カフェテリアと株をもじって名付けられた。食堂の壁には大型電光掲示板があり、前月の平均株価と現在の株価、株価変動グラフがリアルタイムで表示される。

 日清食品HDは3月30日にカブテリアをオープンし、目標を達成すれば築地から取り寄せたマグロの解体ショーを行うと社員に約束した。青いはっぴを着て鉢巻をきゅっと締めた料理人が丸々と太ったマグロに包丁を当てている写真に「全社員待望! マグロの解体ショー! 5月ご褒美メニュー(予定)」と書いたポスターを掲示した。

 だが食堂オープン後の4月末、株価は下がり、翌月は「お目玉デー」となった。そして5月31日、オープン以来で初めて株価が前月平均を上回った。約束通り今月17日、社員が歓声を上げる中、マグロの解体ショーが行われた。

 カブテリアの話を初めて聞いたときは、ただ「おもしろい」と思っただけだった。新聞社でいえば、特ダネが多かった月はカルビ蒸しやガンギエイの刺身、特落ち(他社の特ダネを載せそこなうこと)が多かった月は冷やご飯にキムチ、ということだ。「それならがんばるしかないな」と笑った。

 もう一度考えてみたのは、後になってからだ。社員たちが「お目玉」メニューを食べている様子がテレビカメラに映り、年配の役員たちが配膳をしながら「来月はなんとか良いものが食べられるように頑張りましょう」と話しかけていた。同社によると、役員が配膳するのは「社員だけでなく役員も反省しようという趣旨」だという。お目玉メニューに「1950年代の給食」を選んだ理由も、察しがつく。9年前に他界した創業者の安藤百福氏が自宅の粗末なガレージで世界初のインスタントラーメンを発明し、大ヒットを飛ばした「初心の年」が1958年だった。

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