身長151センチという瀧﨑邦明選手は日本で活躍するお笑い芸人で、芸名は猫ひろしだ。持ちネタは小さな体で「ニャー」と叫ぶ猫のまねだ。マラソンに挑戦するバラエティー番組に出演したのがきっかけで、走る楽しさにすっかりハマった。「国籍を変えて五輪に出てみたら?」と言われて、2011年にカンボジア国籍に変更した。08年に初めて出た東京マラソンで3時間48分を記録。五輪出場の夢をかなえたリオでは2時間45分で、出場した140人中、ビリから2番目だった。それでも39歳のマラソンランナーは拍手喝采(かっさい)を浴びた。

 専門家に聞いてみると、「お笑い芸人だからといってバカにしてはならない選手だ」と言われた。フルマラソンを3時間以内で完走する「サブ3」はアマチュア選手にとって夢の記録だ。血の汗を流すような努力が必要な上、そうした努力をしたからと言って必ずできるわけではない。高校時代には校内マラソン大会で優勝したことがあるという。それにしても自己最高記録2時間27分は立派だ。39歳という年齢にしてマラソンに専念している選手に劣らない情熱と体系的なトレーニングがなければ、到達するのが難しい境地だ。

 このお笑い芸人の「無限挑戦」により、彼と最下位争いをした韓国代表2人はなおのこと面目丸つぶれだった。138位になった韓国人選手の記録は猫ひろしよりを3分上回るだけだ。いろいろと事情はあっただろう。2人はかかとや太ももに痛みを感じたという。監督は「選手村の食事が口に合わず、調整も失敗した」と言った。だが、食事が合わない選手は1人や2人ではないだろうし、調節失敗は選手の責任だ。1カ月半後の全国体育大会(日本の国民体育大会=国体に相当)を前に体力を温存したのではないかと疑う声もあるほどだ。

 韓国陸上界は世界のレベルとはかけ離れた「孤島」とも言われている。苦労ばかりでカネにならない国際大会に挑戦するよりも、全国体育大会のメダルを取って楽に暮らしているのを皮肉ってのことだ。年俸1億ウォン(約900万円)をもらっている選手もいるし、チームを転々として契約金を稼ぐケースもある。「韓国新記録に何億ウォンという報奨金を懸けるのではなく、達成できそうな記録に懸けてほしい」という甘えた要求をする声もある。そして、派閥争いも絶えない。

 黄永祚(ファン・ヨンジョ)氏(1992年バルセロナ五輪マラソン優勝者)や李鳳柱(イ・ボンジュ)氏(96年アトランタ五輪2位)といった逸材を懸命に育成していた韓国マラソン界の成功モデルはもはや機能していない。有望選手の芽は早い時期に摘まれてしまう。小中の陸上競技大会にはプロサッカーやプロ野球のスカウトたちがやって来て、有望な子どもがいないかと目を光らせる。日本は10年以上にわたる長期プロジェクトで有望な子どもを見つけ、スター選手に育て上げる。日本に行けば、駅伝やマラソンに注がれる日本人の国民的関心が我々韓国人の想像をはるかに超えていることが分かる。故・孫基禎(ソン・ギジョン)氏(36年ベルリン五輪マラソン優勝)がもし見ていたら、お笑いのような今の韓国マラソン界を嘆くかもしれない。

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