▲文化部=金性鉉(キム・ソンヒョン)次長

 数年前、生まれて初めて女性アイドルグループのコンサートに行った。取材をするためだったか、中年男のファン心理からだったかは正確には覚えていない。若い男性ばかり数千人が変声期過ぎの野太い声で一斉に叫ぶ姿にはなんとなく違和感があった。とは言え、彼らも不惑を過ぎた中年男が隣にいて熱狂しているとは思わなかっただろう。

 違和感がありながらも心地よい胸のときめきに舞い上がった。ところが、そうした興奮もつかの間、あっという間に戸惑いに変わってしまった。女性アイドルグループのメンバーのうち、生歌で熱唱していたのは3人だけで、ほかのメンバーたちは事前に録音された音源に口の形を合わせる「口(くち)パク」で歌うふりをしていただけだったのだ。コンサート会場でCD音源をそのまま流せば口パクであることがばれるので、少し危なっかしそうでリアルな感じに録音した別の音源を使用していた。それに気付いてからは、どのメンバーが生歌で、どのメンバーが口パクなのか確かめようとしてしまい、頭がジンジンしてくるほどだった。結局、コンサートの後半はろくに歌を聞くこともなく急いで会場を後にした。

 韓国のアイドルグループやソロ歌手が世界で人気になる現象を「K-POP」と呼ぶようになってからかなり経つ。2012年に米ビルボード・チャート2位にまでなった男性歌手PSY(サイ)の『江南スタイル』を基点にする人もいるし、2000年に中国・北京でコンサートをした男性アイドルグループH.O.T.を出発点だとする人もいる。想像力とアイデアの競演であるエンターテインメント分野でも韓国の世界進出が可能だという事実に、胸がいっぱいになったものだ。ところが、「文化輸出商品」であるアイドル音楽には致命的弱点がある。コンサートや番組で歌を歌わずに口パクをするケースが少なくないということだ。年末年始の特別番組も「口パクの洪水」同然だった。

 速くて激しいダンスミュージック中心のアイドル音楽は、単なる音楽ではなく、フォーメーションダンスと音楽が結合した新しい形のエンターテインメントとして理解すべきだとの声もある。たとえ口パクでも大目に見てやるべきだという意味だ。だが、もしそうならば、厳密な意味で言って歌やコンサートとして見ることはできないだろう。それほどダンスの動きが重要なら「モダンダンス」、衣装が重要なら「ファッションショー」、言語以外の意味合いを強調したいなら「パントマイム」と呼べばいい。歌を歌いもしないのに、水槽の金魚でもあるまいし口をパクパクさせているなら、派手な動きでトランプを切って見ている人々をだます「いかさま師」とあまり変わらない。

 1990年代、放送界では不正が明らかになるたびに「口パク禁止」を大々的に打ち出していたが、最近はそういうことさえなくなった。地上波の音楽番組の勢いが以前ほどではないため、芸能事務所のニーズに合わせなければならないとうい状況も背景にある。しかし、小さな食堂でも食材の原産地表示をする昨今、目の前で聞いている音楽が本当に「ライブ(生)」なのか、事前に録音された「缶詰の音楽」なのか分からないなら、これほど悲しいことはない。韓流の競争力のためにも歌番組で画面の端に「ライブ」と表示するのは最低限の義務だ。

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