「後発の利点」を生かして経済発展をもたらした韓国大統領に「欧州の病人、ドイツ」を復興させたシュレーダー氏との対話を薦めたい

 韓国は遅く出発して経済発展に成功した国だ。経済開発の同期生は数十国に上っているが、サムスン、現代自動車、LGのような世界的な独自ブランドを所有している国は、韓国を除いてほかにない。成功した国々には、似ている点がある。そのうちの一つが「後発の利点」をうまく利用したという点だ。出発が遅れたからと言って、何も損ばかりしているわけではない。遅刻して得することもあるのだ。

 後発走者は、先を行く相手の長所を容易に真似し、吸収することができる。先発走者がどこでどのようにつまづいたのかを観察すると、不必要な試行錯誤をする必要がなくなる。後発走者はこうした過程を通じて競争での優位を確保し、先発走者に追い付き、追い越し、歴史の流れを変えてきた。ドイツと日本は、「後発の利点」を生かして先進国として飛躍した賢い国だ。

 1851年に第1回万国博覧会がロンドンで開かれた。英国は産業革命の先駆者らしく各分野の金メダルを総なめにするかのような勢いだった。しかし、ビクトリア女王の夫のアルバート公は、製鉄分野の金メダルが産業革命の後発走者であるドイツの手に渡ったことが引っ掛かっていた。企業家や科学者たちに自分の不吉な予感について説明したものの、耳を傾ける者はいなかった。そして4年後に開催されたパリ万博では、後発国家のドイツが英国を追い抜いたということを、誰もが肌で感じることになった。明治維新を前後して登場した日本の繊維産業も、これに似たコースを歩んだ。

 ドイツと日本を先頭にリードした革新技術の故郷は、英国だ。革新技術は、主流と既得権が掌握している中心部ではなく、その周囲から出現する。企業家たちは、新しい設備投資が必要な革新技術に代わって、過去のやり方に安住しやすい。1850年代頃、英国に出現した製鉄と紡織分野の革新技術が、こうした不遇な立場に置かれることになったのだ。ドイツと日本は故郷で冷遇された革新技術を果敢に取り入れ、「後発の利点」を最大限に発揮した。ドイツと日本の乗り込んだ自動車が、先進国入りする最終電車だった。

 技術の世界では、効率と非効率、効果と逆効果の差がいち早く現われる。道を間違えたことに気付いたら、車を元の位置に戻すのは容易い。問題は制度にある。多くの後発国家が国のフレームと運営方法を決める制度という障害物に引っ掛かり、そして挫折する。制度は、実施してみるまで欠陥が表に現れない。副作用もゆっくりと現われる。猛烈な痛みも感じないため、自覚症状もない。何だかコンディションが良くないなと感じた時は、すでに病が全身に広がっているのだ。

 制度が恐ろしいのは、中毒症状を誘発するためだ。ギリシャとベネズエラのケースは、誤った制度による弊害を物語っている。一時は「天国に一番近い国」と呼ばれた国なだけに、国民の苦痛も大きかった。ベネズエラは石油埋蔵量が最も多い国、ギリシャは先祖のおかげで観光収入が面白いように入って来る国だ。

 2016年、ベネズエラの物価は700%も高騰した。貧困人口の割合は82%へと拡大した。食事を抜く家庭が増えたため、全国民の75%の体重が平均8.6キロも減ったという信じられない研究結果も提出された。国民の生計は国が責任を負う、という豪言壮談の末路だ。国営テレビのKBSが2006年2月18日、「ベネズエラのチャベス大統領が、米国の一方主義と新自由主義に対抗する代案として浮上している」と、1時間の特集番組を組んだが、その国の現実がこうなのだ。

 これは、2010年に国家的不渡りの絶壁で救済金融を申請したギリシャと似ている。出勤する人ごみの中に若者の姿はほとんど見られない。勤労者4人のうち1人が公務員で、大多数の会社は倒産してしまったためだ。造船大国とまで言われた同国に、製造業が占める割合は5.7%だ。緊縮財政と年金削減に反対する労組のデモ隊が、毎日のように町中を練り歩いている。

 不幸の種は、1980年代から90年代にかけ、実に3回(延べ13年間)にわたって首相を務めたパパンドレウ時代に植え付けられた。ハーバード大学経済学部で教壇を取った経験のあるパパンドレウ氏は、公務員の大幅増員、医療保険の適用拡大、年金の引き上げ、底所得層の子どもの海外留学支援など、破格的福祉時代を築き上げた。没落はこの時から始まった。ギリシャの国民の実に48%は、今もパパンドレウ氏を「歴史上、最も立派な首相」という。ベネズエラの親政府デモ隊は、相変わらずチャベス元大統領の写真を手に行進する。中毒とは、こうも恐ろしいものなのだ。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の来年度予算は、まるで「福祉時代」「労働時代」の幕開け宣言文であるかのようだ。この宣言文に「後発国家の利点」を受け継ぐ知恵が盛り込まれているのか。文在寅時代は、韓国が先進国の仲間入りを果たす最終電車の時間帯と重なる。終電を逃せば一貫の終わりだ。500万人の失業者と「欧州の病人」という不名誉を背負い、国の運命を開拓しなければならなかったシュレーダー元首相の自叙伝が出刊された。「ドイツ経済再生改革10カ条」に盛り込まれた労働の柔軟性確保と医療保険、年金改革をめぐり、悶々とした夜を過ごしたシュレーダー元首相と、せめて書籍を通じてだけでも話し合ってみることをお薦めしたい。

ホーム TOP