韓国の国防科学研究所(ADD)は「北朝鮮が6回目の核実験時と同程度の爆発力を持つ電磁パルス(EMP=electromagnetic pulse)弾をソウル上空で爆破させたら、少なくともソウルから全羅北道群山市まで電子機器・設備が無力化する可能性がある」というシミュレーション(模擬実験)結果を国会国政監査資料として29日、提出した。これによると、陸軍本部など韓国軍指揮部がある忠清南道鶏竜台を含む中部地域のほとんどが被害影響圏に入ることになる。ADDによる北朝鮮のEMP弾シミュレーション結果が公表されたのは今回が初めてだ。

 ADDが今月中旬に実施し、国会国防委員会所属の李哲熙(イ・チョルヒ)議員=共に民主党=に提出したシミュレーション結果によると、ソウル・南山上空40キロメートル地点で160キロトン(1キロトン=TNT爆薬1000トンの威力)のEMP弾が爆発した場合、全羅北道群山市-慶尚北道金泉市-江原道東海市をつなぐ韓半島(朝鮮半島)中部地域(半径252キロメートル)が10kV/m(電界の強さの単位)以上の電磁パルスにさらされることが分かった。この場合、民間で使う電力や通信はもちろん、韓国軍の指揮通信網や防空システムなども無力化すると予想される。10kV/mは、1962年に旧ソ連がカザフスタン上空で実施した高高度核実験時に「国家基幹網で被害が発生した」と報告された電界の強さと同じだ。EMP弾は実戦で使用されたことがないため、ADDは旧ソ連の核実験資料を基に被害が予測される範囲を推定した。

 シミュレーション結果によると、EMP弾が爆発したら、地球の磁場の影響で電磁パルスが馬のひづめ状に広がり、南側に被害が集中することが分かった。ソウルから在韓米軍基地がある平沢までが非常に強い電磁パルス(20kV/m)にさらされるとADDでは予想している。北朝鮮南東部の黄海北道開城市・黄海南道海州市なども被害影響圏に入るが、北朝鮮は韓国に比べて電子設備が少なく、EMP攻撃前に電源を切るなどの対策が可能なため、韓国側よりも被害が少ないとしている。

 このような分析に対して、「被害の基準をあまりにも少なく見積もっている」という意見もある。1960年代の旧ソ連に比べ、現代は電子機器の使用範囲がはるかに広いからだ。西京大学電子工学科のチョン・ヨンチュン教授は「一般的な電子機器の場合、5-6kV/mレベルにさらされただけでも壊れるという実験結果もある。特に回路の長さが長いほど被害が大きくなるため、電力・通信網の場合は被害が大きい」と語った。ADDのシミュレーションによると、済州島を除く韓国のほぼ全域が5kV/mの範囲に入るという。

 ウィリアム・R・グレアム元米国議会EMP委員会委員長は12日、米下院国土安全保障委員会の証言で、「(EMPから)保護されていない機器の場合、1kV/mよりもはるかに低いレベルのEMPにさらされても誤作動を起こしたり、壊れたりする可能性がある」と述べた。ダム・発電所・ガス管などのインフラに適用される遠隔制御装置は弱いレベルのEMPにさらされれても誤動作を起こし、水道水・ガスなどの供給がストップするということだ。このため、済州島を含む韓国全土がEMP弾の被害を受ける可能性がある。

 北朝鮮は今年9月の6回目の核実験時、韓国に対するEMP攻撃の可能性に言及したが、韓国国内のEMP防護施設は一向に進歩していない。国防部(省に相当)が国会に報告した内容によると、韓国軍は当初、固定設備約400カ所についてEMP防護が必要だと見ていたが、現在まで計画が立てられているのは50カ所のみであることが明らかになった。李哲熙議員は「政府次元でEMP防護計画を全面修正し、EMP防護事業完了時期も大幅に繰り上げなければならない」と述べた。

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