大学生のカン・ジへさん(25)は9月末、清渓山を訪れた際に、首にチェーンを掛けていない犬に遭遇した。口元が毛で覆われていたこの犬は、大きくはなかったものの、荒々しくほえ立てた。驚いて後ずさりしたところ、木の根っこに足が引っ掛かって転びそうになった。飼い主の男性はやや離れた所に立っていて「早くおいで」と促すだけで、謝る気配は全く見られなかった。カンさんは「登山の途中にこうした犬に出くわすと、後戻りすることもできないため非常に困る」と、苦渋の表情を浮かべた。

 犬が原因のトラブルは、何もマンションのような集合住宅でのみ起こるわけではない。山や公園などでも、犬のために恐怖におびえる人は少なくない。特にこうした場所では、飼い主の多くが犬のストレスを解消させるため、首輪や口輪を外しているケースが多い。

 会社員のソンさん(29)は先週、ソウル市瑞草区盤浦洞にある漢江公園で、自転車の前に突然飛び出してきた小さな犬を避けようとしたところ、自転車が転倒。右肩を負傷した。ソンさんは「家から近いため、この公園によくやって来るが、こうした経験は何度もあった。犬は人より小さいが、走るスピードが速いため、避けにくい」と話す。

 散歩で山を訪れる犬は、活動量の多い大型犬であるケースがほとんどだ。ソウル市恩平区に住むキム・ジョンミさん(64)は最近、家の近くの高台を散歩していた際に、首輪をしていない2頭のグレーのシベリアン・ハスキーが猛スピードで走ってくるのを見た。ハスキー犬が横を通り抜ける瞬間、キムさんは驚きのあまり腰を抜かしてしまった。飼い主は、しばらく後で息を切らしながらやって来た。キムさんは「飼い主は犬のスピードに追い付けないのに、首輪を解くとは何事かと腹立たしく思った」という。

 中には、犬が残していった排せつ物を踏んで転んでしまったという人もいる。犬に木の下に排便させ、落ち葉でこっそりと隠した後、そのまま帰ってしまうのだ。ソウル市近郊では、飼い主が自転車に乗り、犬にその後を追わせるようにする人もいる。犬のチェーンが自転車にからまって事故に至る恐れがある。

 犬の飼い主たちは「犬を十分に散歩させられる場所が少ないため、山に連れてくるほかない」という。大型犬のドーベルマンを飼っているというある飼い主は「普段は散歩と言っても家の前の道路を歩くのがせいぜいで、犬の精力的な活動量を満たすには程遠い。1時間ほど山登りをすると、私も犬もストレスが解消される」と話す。また、他の飼い主は「人出の少ない早朝に山へ行き、少しの間犬を放してやっていたが、今では登山客の顔色をうかがうようになった。今後は山に連れていくこともできなくなるのではないかと心配」と複雑な胸中を語った。

 山では野良犬が出没し、登山客の安全を脅かしている。ソウル市鍾路区旧基洞に住むチョン・ウンジンさん(41)は最近、娘(12)と共に北漢山へ山登りに出掛けた時に、ビボン登山口付近で4頭の犬が群がって歩いているのを見た。体長が1メートルにもなる大型犬だった。首にはチェーンがつながれておらず、周りを見ても飼い主は見当たらなかった。チョンさんは「後ろを向いて逃げれば犬が付いてくるかもしれず、その場で10分以上じっと立っていた。これこそ化け物だと思った」と、当時の恐ろしい様子を振り返った。ソウル市冠岳区に住むキムさん(56)は先月、冠岳山へ出掛けたところ、少なくとも15キロはあると思われる大きな野良犬と出くわした。キムさんは、ゆっくりと後ずさりして、犬がしばらく他の場所を見ている間に慌てて山を駆け下りた。キムさんは「あの時見た野良犬は文字通り野生動物だった。今でも殺気に満ちた犬の鋭い目つきを思い浮かべると、自然と冷や汗が出る」という。

 ソウル市内に生息する野良犬は、そのほとんどが捨てられたペット犬で、山に入って何代にもわたって繁殖したものだ。人の手によって育てられ、やがて捨てられた小型犬とは違って、野良犬は大型で、やや痩せている。また、2、3頭ずつ群がって行動するケースが多い。野良犬は人を見ると逃げる習性があり、すぐに飛び掛かってくることはめったにない。しかし、狭い山道で突然犬に出くわした場合、避けようとして負傷してしまうこともある。

 ソウル市は、都心の野山に生息する野良犬の数を160頭以上と推定している。昨年ソウル市は116頭の野良犬を捕獲し、このうち63頭を殺処分にした。しかし、頭が良く、たやすく捕まらないほか、繁殖も早いため、個体数は減っていない。

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