▲金大中(キム・デジュン)顧問

 国の体(てい)を成していない。国の最高情報機関のトップだった人物が一度に3人も捕らえられ、国防機関のトップだった人物が逮捕されるなどという事態は、まるでこの国にクーデターでも起きたかのような錯覚を起こさせる。

 いつも言っているが、法治国家では誰であれ罪を犯せば捕まり、間違いがあれば罰を受けなければならない。大統領も弾劾されて拘置所に収容される国で、こうした元国家情報院院長や国防部(省に相当)長官の逮捕は一大事と言えるだろうか。しかし、大統領の間違いはいわゆる指揮責任だが、その部下たちの間違いは命令服従であるという点では異なる。大統領の弾劾は憲法的かつ政治的で、だからこそ民主的なものに見えるが、部下の逮捕は報復的で力の誇示であり、だからこそ稚拙に感じる。

 検察が彼らを逮捕する際に示した逮捕理由を見ると、大統領府の指示に基づいて国家情報院の資金(特殊活動費)を大統領府に渡し、軍のサイバー機能を政治的書き込みに利用したというものだ。彼らは個人的に金を横取りしたり、他人の物を奪ったりしてはいない。それが間違いかどうかは法廷で判断されるだろうが、彼らは過去の担当者たちが長年の慣行のように行ってきた通りにしただけで、書き込み問題も全体のサイバー活動の0.5%にも満たないレベルだった。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権はこの逮捕・捜査劇を「積弊(せきへい=過去の政権による長年の弊害)清算ショー」のように見せ物にする前に、これが対外的に及ぼす影響を考えるべきだった。大統領の弾劾・逮捕までは「韓国が現職大統領でも引きずり下ろすことができる国だ」と畏敬(いけい)の念を呼び起こすことができたが、安保・情報担当部処(省庁)トップの逮捕に至っては「韓国はあのようにメチャクチャでデタラメな国だったのか」という蔑視(べっし)と冷笑を招きかねない。「あんな国をどう信じ、共に協力し、情報交換し、軍事に関して話し合うことができるだろうか」というのが周辺国、特に同盟国・友好国の反応だろう。国家情報院初代院長を務めた李鍾賛(イ・ジョンチャン)氏は「国際的に韓国の情報の信頼度が低下するのではと心配になる」と言った。

 特に、北朝鮮からすれば「してやったり」というところだろう。北朝鮮は「韓国の情報機能や国防能力は偏狭な政治の手下に成り下がり、あの様子では対外的な信頼を保つのも難しいだろう」と考え、非常に励みになっていることだろう。自国の情報維持や軍事安保に国力をかけてきた北朝鮮指導層としては、韓国の情報と軍事安保が損なわれかねない今回の事件に痛快な思いをしているだろう。北朝鮮は特に、「公共の敵」扱いしてきた金寛鎮(キム・グァンジン)元国防部長官の逮捕を「直接手を下さずにいとも簡単にうまくいった」と感じているに違いない。

 彼らの逮捕・捜査は、我々が直面している安保の状況にも悪影響を与える。今、我々は韓国の安保のため全力を傾けなければならない時期だ。戦争の危機だとして論争している米国、安保至上主義に向かう日本、韓国をひざまずかせようとしている中国に囲まれ、国の安全を図らねばならない絶体絶命の課題を抱えている韓国としては、事の後先を考えて軽重を見極め、緩急を調節する知恵を集めるべき時だ。そうした時に、私利私欲による罪でもなく、関係機関の間違った慣行やささいな手違いを持ち出して情報・安保担当部処トップを逮捕するのは、中国の文化大革命時の粛清を思い起こさせる。

 だから、そのオーバー・アクションを目にして、世間では「彼らがターゲットなのではなく、その上にいる朴槿恵(パク・クネ)前大統領に罪をかぶせ、李明博(イ・ミョンバク)元大統領に(盧武鉉〈ノ・ムヒョン〉元大統領自死の)復讐(ふくしゅう)をするためにしているのだろう」という声が飛び交っている。暁星グループ再捜査も李明博元大統領をターゲットにしているといううわさまである。こうした話が事実なら、積弊清算はそんなに急がなければならないことだろうか? これだけやれば朴槿恵前大統領と李明博元大統領を追い込むだけ追い込んだと言えるのではないだろうか? 保守系野党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表は「国家情報院の特殊活動費大統領府上納事件で処罰するには、検察から毎年100億ウォン(約10億円)の特殊活動費を上納されたという法務部も共に処罰しなければならない」と言った。

 文在寅大統領には国防・情報担当部処の元トップの捜査を終わらせ、制度改善へと「積弊清算」の方向を変えてほしい。それが不可能ならば、身柄を拘束せずに行うのが望ましい。文在寅政権は誰かの背後を暴いたり過去を引っかき回したりすることをもうやめ、前を見て未来に備える道を進むべきだ。積弊という「わな」を外そうとして、自分がその「わな」にかかる愚かさをこれ以上続けてはならない。最近の状況を見ていると、文在寅大統領は十分に統制権を握って国政運営しているのだろうかと疑念を抱く時がある。なぜなら、権力の中枢で働いた経験のある文在寅大統領なら、現在のような逮捕・捜査という恒例行事が果たしてこの国の将来の助けとなるのか知らないはずがないからだ。

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