人気アイドルグループ東方神起は、もともと5人組だった。このうち3人が2010年、所属事務所の専属契約が不公正だとして、JYJというグループで独立した。しかし事務所側の妨害のせいか、地上波のテレビ番組にはなかなか出られなかった。するとJYJのファンクラブ連合は11年3月、ソウルの地下鉄駅21カ所に「地上波行き急行列車に乗れ」という内容の応援広告を出した。同年5月には少女時代のファンが、成人したメンバーのソヒョンのために、発音が同じ地下鉄ソヒョン駅にお祝いの広告を出した。

 アイドルスターのファンクラブがお金を集めて地下鉄に広告を出し始めたのは、この時期からだろう。最近では、若者が多数行き来する駅にはほぼ常時こうした広告が出ている。ソウル交通公社によると、アイドルのファンクラブの広告は昨年1038件だった。16年にはおよそ400件だったので、一年で倍以上増えたことになる。

 ファンクラブは、スターの公演を一緒に見て、情報を共有するところから始まった。その後2000年代に入って、ネットとソーシャルメディアを武器に「自分たちが直接育てる」という形に変わっていった。韓国政界でも、「盧サモ」(盧武鉉〈ノ・ムヒョン〉を愛する人々の集まり)、「朴サモ」(朴槿恵〈パク・クンへ〉を愛する人の集まり)といったファンクラブが作られた。政治家にとっては大きな力だが、時には行き過ぎた行動で重荷にもなる。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領の誕生日(1月24日)をおよそ半月後に控えて、支持者らがソウルの地下鉄駅にお祝いの広告を出した。「文大統領を応援する女性たち」だとして「moon_rise_day」というツイッターのアカウントを作り、推進した。光化門・高速ターミナルなどソウルの地下鉄駅10カ所に1カ月間出すという。光化門の広告に記された掲示者名は「熱帯果実愛好家の会」だった。費用は1300万ウォン(約136万円)ほどかかるという。この広告に拒否感を示す人もいたようだ。主催側が自ら、11日に「ソウル・メトロ側に、この広告を撤去して欲しいという趣旨の陳情が激増している」として、支持者に電話を督励した。すると12日午後には、公社側が「(広告を)撤去を求める陳情が100件ほど、そのままにしておけという要求が1900件ほどになる」と発表した。

 ソウル交通公社の広告物審議規則には、「政治的中立性を損なう恐れがある場合には制限する」という条項がある。誰かに伺いを立てて、広告を出すことにしたのだろう。広告をめぐっては、与党内にも「余計な『偶像化』という非難みたいなものを生みかねない」と言う人々がいるという。都心に大統領・首相の誕生日を祝う広告が登場する国がどれほどあるかは分からないが、独裁時代を経験した韓国でもなじみがないというのは事実だ。

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