「もうこれ以上おもちゃは買ってあげないから!」

 突然のママの宣言に完全に降参しなければならなかった10歳のあの日は「すごく、すごく、すごくショックだった」-と、日本の絵本作家・岩井俊雄さん(56)=写真=は真顔になった。岩井さんが書いた「100かいだてのいえ」シリーズは地上、地下、海、空の4巻合わせて日本で290万部、韓国で30万部が売れたベストセラー。岩井俊雄という名前は知らずとも、「100かいだてのいえ」と聞けばたちまち口をぽかんと開けてしまうくらい、子どもたちが大喜びする本だ。

 シリーズの中でも「うみの100かいだてのいえ」は、少女が誤って海に落としてしまった人形「テンちゃん」が、散らばった服や髪を探して「うみの100かいだてのいえ」に入っていくというストーリー。イルカが暮らしている10階、タツノオトシゴが暮らしている40階、さらにヤドカリが暮らしている90階まで降りていく間に、読者は海の多彩な風景や住民たちのそれぞれ異なる暮らしを、絵探しをするかのように探索する。

 今年の日本発刊10周年、来年の韓国発刊10周年に合わせ、8月26日までソウル・蚕室のロッテデパートAVENUELアートホールで「うみの100かいだてのいえ」メディア特別展が開かれている。同展のためソウルを訪れた岩井さんは「ヒトデやラッコ、ウツボが暮らす家を実物大に拡大した。絵本のようにどぶんと落ちて、海中の未知の世界を思い切り歩き回れたらいいのに」と語った。

 子どものころの岩井さんは、縄跳びをさせたら足に引っ掛かり、跳び箱には顔から突っ込むという運動音痴。怖がりで気が小さい一人息子を心配した両親は、おもちゃの代わりに、実際にトンテンカンとできる工作道具を握らせた。ちょうどテレビで月探査船の打ち上げシーンを見た岩井さんは、紙を切り貼りしてロケット型のたこを作り、空に浮かべた。「としお1号」だった。その後、1985年の第17回現代日本美術展で大賞を最年少受賞し、メディアアーティストになった。三鷹の森ジブリ美術館の映像展示や携帯用ゲーム機「ニンテンドーDS」のアートソフトを手掛け、ヤマハと共同で「音と光を演奏する」楽器を開発した。東京大学先端科学技術研究センターの特任教授も務めた。

 仕事に追われて気配りができなかったころ、小学生の娘が数字を覚えられずにいた。父親として何ができるか悩んだ末、星が好きな少女が100階建ての家に招待されて冒険するという「100かいだてのいえ」を描いた。「テレビやゲームは、子どもがただ見るだけでいいが、絵本はページも少なくて余白が多く、本には描かれていないことを想像し続けないといけない。読んでいる人間が主人公」。空想が大切な理由は「大人になって花屋をやるとなっても、『こんな店なら面白いだろうな』と夢を育んでこそ注目を集め、成功もできる」から。「壊れても、倒れても、自分だけの想像の筋肉を育んでこそ、起き上がりこぼしのようにまた立ち上がれる」

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