韓国マスコミは、北朝鮮の9・9節を「北朝鮮の政権樹立70周年」と表現した。1948年8月15日の韓国建国の意味を「大韓民国政府樹立」程度に縮小する物差しを、北朝鮮にも適用したのだ。9・9節は北朝鮮の建国節だ。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は新年の辞で「偉大なる首領様と将軍様の最大の愛国遺産たるわが国家の創建70周年」だとして「大慶事」と述べた。

 韓国の建国日は1948年8月15日だ。1910年の国権喪失以降、韓民族が国際法的に国民・領土・政府を回復した日は、この日だけだ。ところが文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2年前、「8月15日建国」の主張について「韓国の正統性を自ら否定する間抜けな主張」だと言った。大統領になった後、その延長線上で「(2019年3月1日が)韓国の建国100周年」だと主張した。この点では、金正恩委員長の思考が合理的だ。

 三・一運動と大韓民国臨時政府は輝かしい歴史だ。憲法の文言の通り、韓国の法統はここから出発している。彼らが蓄積した努力と国際情勢の変化の結果、1948年8月15日に韓国が建国された。これは歴史観によって別な見方がなされる問題ではない。ありのままの「事実」だ。三・一運動を称賛して48年8月15日を無視する理由はない。ところが韓国政府が乗り出して踏みにじっている。初代大統領・李承晩(イ・スンマン)を認めたくないという我執のせいだ。我執が、「建国70周年」の足跡を韓国の地から消し去った。その空白に、北朝鮮が魔物のように飛び付いた。「南南対立」を狙って「首領様と将軍様の最大の遺産」たる「国家創建70周年」をねじ込んできたのだ。

 北朝鮮の「9・9節勝負手」は、予告済みの事件だった。金正恩委員長は新年の辞で、今年の9・9節を「大慶事」、平昌冬季オリンピックを「民族の位相を誇示するよい契機」と規定した。韓国政府を通して「非核化」の意思をちらつかせつつ、平昌に代表団と選手団を送った。北朝鮮の参加に対する好悪の感情はさておき、韓半島(朝鮮半島)の緊張を緩和してオリンピックを成功に導くことを否定はできない。今度は韓国の番だ。民族の位相を誇示させてやったのだから、自分たちの「大慶事」も輝かしいものにしろ-というのが、北朝鮮が突き付けた請求書の中身だ。

 外交とは主導権争いだ。主導権を失ったら引きずられて、捨てられる。8月13日の閣僚級会談で北朝鮮の祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長が行った「貝の殻」発言、そして韓国統一部(省に相当)の趙明均(チョ・ミョンギュン)長官が行った「内気なので…」発言が、構図を正確に表している。主導権を奪おうと思ったら、相手を上回る果敢な発想が必要だ。ひとえに国益と結び付けていかねばならない。北朝鮮の「9・9節カード」を受けて立つ韓国側の勝負手は「8・15カード」だった。北朝鮮がそうしたように、「8・15建国日」を「建国英雄の最大の愛国遺産」として金正恩委員長をソウルに招待すれば、場をひっくり返すことができた。北朝鮮が奇跡的に受けて立てば、現政権の立場からすれば大成功で、拒否したとしても北朝鮮の「9・9節カード」は無力化できた。

 文在寅政権は、自らこのカードを破り捨てた。「8・15建国」は依然として「韓国の正統性を否定する間抜けな主張」だと考えているらしい。大統領は、「積弊集団」の理念をたたき壊す「歴史を正す行為」だと自評するだろうが、外交の舞台から見れば、自分で自分の足を引っ張っているようなものだ。他国の誰が李承晩と金九(キム・グ)を、朴正煕(パク・チョンヒ)と金大中(キム・デジュン)を分けて考えるというのか。皆同じ韓国の指導者だ。韓国の現政権指導部の歴史観は卑しい。組分けをして、国力を浪費している。8月13日の板門店閣僚級会談で見られた南北首脳会談の日取りを巡る当惑と混線は、彼らの歴史観が招いた結果だ。これを改めなければ、北朝鮮に引きずられた上、最後には捨てられるだろう。

 政権指導部の中心には、韓国の歴史を誤って学んだ人物が多い。韓国が高度成長を成し遂げて経済大国の列に加わろうとしていたとき、この国は「国家独占資本主義なのか、新植民地半封建社会なのか」を巡って夜通し論争をしていた人々だ。「間抜け」とはこういうことをいう。韓国は親日派ではなく、愛国志士が建設した。世界の新生国家の中では最も早く土地改革を成し遂げ、革新的な企業と愛国的な官僚が国を育て、旧帝国主義国を最も賢く活用して経済自立を達成した。新生国家の中で、韓国ほど産業化を基盤に民主主義を安定して定着させた国はない。

 こうした成功は、70年前の8月15日に建国された大韓民国が、政治システムに自由民主主義、経済システムに市場主義と国際主義、外交と安全保障に韓米同盟を選んだから可能だった。きちんと勉強すれば、中学生でもこの事実を理解する。韓国の現政権が北朝鮮向けにバラマキをしようと焦ってもできない理由、これもまた70年前に建国の英雄たちが設計したシステムを超えることができないからだ。

 国の歴史に対する知識と愛情なしに、外交をしてはならない。そんなことをしても、ホームレスのように世界の舞台をさまようだけだ。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)社会部長

ホーム TOP