21日に日本の福岡県で開催された全日本実業団対抗女子駅伝の予選会(プリンセス駅伝)。42.195キロを6区間に分けて6人の選手がたすきをつなぐ競技で、全27チームが出場した。このうち上位14チームだけが本大会に進出できる。

 この大会で、第2区(3.6キロ)を走っていた岩谷産業の飯田怜選手(19)が残り300メートルの地点で突然倒れた。飯田選手はこのとき右足を骨折し、大きな衝撃で歩くことすらできなかった。ところが飯田選手はなんと、路側の白線の上を両手・両膝をついて四つん這いで進み始めた。膝はすぐに血で染まった。テレビカメラに映った飯田選手の表情は苦痛でゆがんでいた。それでも左手には次の走者に渡す赤いたすきがしっかりと握られていた。白線の上には2本の血の跡が残った。

 テレビで状況を見守っていた岩谷産業の広瀬監督は大会本部に「やめさせてくれ」と棄権を申し出た。これを伝え聞いた現場の審判は飯田選手を止めようとしたが、飯田選手は拒否し、何としても中継所までたどり着くという強い意思を示した。沿道の観客は「頑張れ」と声援を送った。

 飯田選手の「続行」の意思を確認した審判は、本部に状況を報告した。すると広瀬監督は本部に再び棄権を申し出た。監督の意向が本部を経由して現場に伝わった時には、飯田選手はすでに残り15メートルの所まで進んでいた。結局飯田選手は300メートルを四つん這いで「完走」し、たすきをつないだ。岩谷産業は27チームのうち21位で、本大会出場を逃した。

 飯田選手は病院で全治3-4か月と診断されたという。膝にも傷跡ができた。それでも飯田選手は病院を訪れた広瀬監督に何度も頭を下げて「申し訳ありません」と謝った。

 飯田選手の奮闘は、TBSテレビの中継映像で日本全国に伝わった。すると、これが大きな論争を呼び起こした。「これこそが大和魂(集団を重視する日本の精神)だ!」「彼女の根性に敬意を表する」。這ってでも責任を果たしたことに対し、称賛の言葉が相次いだ。しかし一方で、反対意見も少なくなかった。「あれを見て『感動した』という人がいるから過労死がなくならない」「傷よりも感動を重視する風潮」などの否定的な意見だ。

 日本社会は、今回の問題について「駅伝特有の重圧」と解釈しているようだ。駅伝は日本全国で一年中大会が開催されるほど日本では人気がある。地域や団体の名前を胸と背中に付けて走るため、重圧も大きい。毎日新聞は「駅伝は1人が棄権すれば1年間の努力が水の泡になるため、棄権や失格をした選手は退部するケースも珍しくない」と報じた。

 この問題が駅伝に限ったことなのかという疑問も提起されている。這ってでも次につなげさせようとする日本社会の「空気」が原因との指摘もある。個人より集団を重視し、失敗の責任を負うことに過敏になっている日本社会が変わらない限り、こうした問題はまた繰り返されるというわけだ。

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