文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、盧英敏(ノ・ヨンミン)氏が大統領秘書室長に就任したことで空席となっていた駐中大使に張夏成(チャン・ハソン)元政策室長を内定したという。2017年に盧氏が駐中大使に任命された際にも「情実人事」だとか「外交上の専門性を欠く」といった指摘を受けた。それだけに、今回は文大統領が専門性を備えた人物を駐中大使に充てると期待されていた。しかし、起用されたのはまたも側近だった。張室長は外交、安全保障分野の経験が皆無の経済・経営学者だ。中国語能力も疑問であり、中国に関する専門性も検証されていない。

 2月26日に張氏が高麗大教授を辞職した際のあいさつは、張氏が大使として適任かどうかをめぐる論争をエスカレートさせている。今年で65歳になる張氏は退任式でこう語った。

 「私は理想主義者だ。若いころは自分が願う理想的な未来、虹があると信じてそれを追いかけてきた。歳月が流れ、経験も生じると、虹は存在しないことが分かったが、あえて分別もなく虹を追い続ける少年のように生きていきたい」

 昨年11月に大統領府(青瓦台)を離れて以降、4カ月間外出せず、初めて公の席に姿を見せての発言だった。張氏は政策室長として在任中、「所得主導成長」を主導し、雇用・経済状況を悪化させたとして強い批判を受けた。「虹を追う少年」という言葉は、当時の失敗は認めるが、これからも理想を夢見ながら生きていくという意味と受け取れる。張氏はまた、「現実の政治に政治家として参加することには過去にも関心がなく、今でもそうだ。これからも現実の政治には加わらない」とも発言した。事実上現実の政治とは一線を画すという「宣言」だった。

 ところが、その発言からわずか6日後、張氏の駐中大使内定が報じられた。張氏が大使内定を知っていて退任のあいさつを行ったかどうかは分からない。たとえ知らなかったとしても、「現実の政治はやらない」と宣言しておいて、大使ポストをすんなり引き受けるというのは納得できない。特に中国は韓国の外交において、米国に匹敵するほど重要な国だ。「側近で信頼できる」という生半可な理由だけで実力が検証されていない人物を大使に据えてもよいポストではない。

 張氏は米国で経済・経営学で修士号、博士号を取得し、これまで経済分野の学者として生きてきた。それが突然、文在寅政権で初代政策局長に抜てきされた。文政権の経済政策を直接陣頭指揮したが、事実上落第点で退任した。今度は専攻分野でもない外交・安全保障分野を担当するというのだ。それに非核化交渉をはじめとする南北と米中のデリケートな懸案が山積している状況だ。「虹を追う」という張氏が話して駐中大使としての役割を果たすことができるのか、外交関係者の間では懸念する声が相次いでいる。対中外交は虹を追い実験する場ではない。張氏が誤れば、個人的な失敗にとどまらず、大韓民国の外交の失敗につながる。

ノ・ソクチョ政治部記者

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