歴史問題
安重根義士の埋葬先、韓国国家記録院公表史料は「不確実」
当時のロシア紙、朝日新聞引用時に誤り
ハルビンで伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)義士のハルビン義挙に関連し、韓国の国家記録院がロシア国立図書館で発見したとして公開した当時のロシア紙記事について、「史料としては不確実だ」とする指摘が学界から相次いでいる。安重根義士がキリスト教墓地に埋葬されたという内容で注目を浴びた新聞記事は、ロシア紙が日本の朝日新聞を誤って引用したものだったことが確認された。さらに、国家記録院がロシア紙の内容が誤報であることを知りながら公開していたも明らかになった。史実を厳格に扱うべき機関として、性急な公開だったとの指摘を受けている。
28日に国家記録院が公開した記事6点のうち、最も注目された記事は1910年4月21日付の「ウスリースカヤ・アクライナ」の記事だった。安義士の棺を「礼拝堂を経て、地域のキリスト教墓地に運んだ」とする内容だった。国家記録院は「これまで埋葬地は刑務所の墓地だとされていたが、キリスト教墓地に埋葬されたと報じている点で注目される」とし、同院によって、安義士の遺体の行方に関する新たな手がかりが見つかったかのように発表した。同院関係者は「埋蔵先の部分が重要だ」との解釈も付け加えていた。
問題の記事は、「朝日新聞の特派員によると」とう転電スタイルだ。しかし、安義士が殉国した翌日である1910年3月27日付の朝日新聞には「キリスト教墓地」という記述はなかった。国家記録院は「ロシア紙が別途取材して追記した可能性もあるのではないか」とし、誤報ではない可能性もあると主張した。しかし、問題の記事が安義士の殉国から1カ月後に掲載されている上、ハルビン現地でも安義士の主な活動拠点でもないウスリースクで発行されていた新聞が扱っている点からみて、事実関係の確認が必要だとの指摘がある。匿名の独立運動家研究者は「たった1件の史料で全てが分かったかのような公開方式は中国の協力が必要な安重根義士の遺骨捜索作業に重大な障害となりかねない」と指摘した。また、別の研究者は「史料の価値を判断するための専門家による討論会も開かずに公開したことに戸惑いを感じる」と語った。
国家記録院は事実関係を取捨選択して公開した部分もある。公開されたロシア紙記事にはやや否定的な記述もあった。安義士による義挙後、大韓帝国皇帝の純宗(スンジョン)が曾禰荒助(そね・あらすけ)朝鮮統監を訪ねて謝罪したという内容が代表的だ。純宗が「恩人であり身近なわれわれの顧問である伊藤侯爵が邪悪なわが国民によって殺害された」として、日本政府に謝罪の意を表明したとの部分だ。記録院は論議を呼ぶ部分をなるべく隠そうとしたのではないかとの指摘を受けている。
国家記録院は徳成女子大教授出身の李昭姸(イ・ソヨン)院長が2017年に就任して以降、しばしば話題になっている。李院長は就任直後、国家記録院の「積弊清算」に乗り出した。18年1月、「朴槿恵(パク・クンヘ)政権時代の国家記録院が特定の専門家をさまざまな委員会から排除するための『ブラックリスト』を作成した疑いがある」として、民間人14人が参加する「国家記録革新タスクフォース」を設置した。しかし、タスクフォース発足から2カ月後、李院長は「(ブラックリストが存在するという)確実な証拠は見つからなかった」と表明した。このため、国家記録院が明確な証拠もないまま、無責任な発表を行ったのではないかとする批判が相次いだ。専門家は「国家記録院が本来業務である資料の収集と保管から逸脱しようとしているため、雑音が絶えない」と指摘した。