与党系「代案新党」の千正培(チョン・ジョンベ)議員は12日に出した論評で「南北関係を破局に追いやると予見される人物を大韓民国の国会議員候補として推薦することが、安全保障を重視するという自由韓国党のアイデンティティーに合致するのか問い正したい」と主張した。野党・自由韓国党が、韓国に亡命した元駐英北朝鮮大使館公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏を党員として迎え、ソウル地域区(小選挙区)の公認候補とすると発表してからわずか2日後、汎(はん)与党勢力の現職議員が公開反発に乗り出したのだ。千議員は太永浩氏の入党について「南北間の歴史的合意に対する否定であり、北朝鮮に対する全面戦の布告」だとして、公認の方針を撤回するよう求めた。民衆党も前日に「南北関係の発展を求める国民を愚弄する決定」だと批判した。

 こうした反発は、太永浩氏に対する与党圏の見方を代弁するという側面がある。与党「共に民主党」はこれまで、太永浩氏の振る舞いに対していちいち難癖をつけてきた。太永浩氏が2018年に国会で講演した際、共に民主党の李錫玄(イ・ソクヒョン)議員は「北朝鮮を刺激しないようにするべき」として「この時局に(太永浩氏を)国会に呼んでこんなことをすべきなのか」と述べた。キム・ギョンヒョプ議員も「太永浩氏が記者会見を開いて北朝鮮について敵対的行為をした」と指摘した。今回の入党をめぐっても、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に近い傾向のSNS(会員制交流サイト)やインターネットコミュニティーでは、太永浩氏と自由韓国党を批判する書き込みが相次いだ。「『従北狩り』をしていた自由韓国党が、本当の『共産主義者』を入党させた」「太永浩がスパイの可能性もある」といった書き込みが多数だった。太永浩氏が犯罪者だという北朝鮮の的外れな主張をそのまま書いているものも多かった。しかし、太永浩氏は文政権になっても約1年にわたり国家情報院傘下のシンクタンクで諮問委員として勤務し、その後職を退いた。文大統領を支持するネットユーザーの主張通りだとすれば、そもそも文大統領にも問題があると考えるほかない。

 太永浩氏の出馬が不適切だという千議員の主張は、憲法の価値を否定するものだ。韓半島全体を大韓民国の領土と規定している憲法上、脱北民もまた厳然たるわが国民だ。また、憲法は第10条で幸福追求権を、25条で公務担任権(公務を遂行できる参政権)を国民の権利として明示している。被選挙権のある国民は誰でも自由に出馬できるという原則だ。8年前、北朝鮮の金日成総合大学出身の趙明哲(チョ・ミョンチョル)元統一教育院長が比例代表で選出されて国会議員になった前例もある。元法務部長官で当選5回の千議員がこれを知らないはずがない。

 太永浩氏の出馬が正しい南北関係の構築に寄与できるのか、または与党勢力の主張通り障害になるのか、現段階では分からない。しかし、それは有権者が判断することであり、太永浩氏も小選挙区から出馬して審判を仰ぐつもりでいる。それにもかかわらず「北朝鮮に対する全面戦」などと言って太永浩氏の出馬自体を否定する者には、このように反問するほかない。大韓民国の憲法が重要なのか、金正恩(キム・ジョンウン)氏の機嫌が重要なのか。

ユン・ヒョンジュン政治部記者

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