「日本の会社員が書類を受け取ると、プリントアウト(P)して、はんこ(H)を押し、それをスキャン(S)して返送する。このPHSが日本のデジタル化を阻む主犯だ」(上原哲太郎・立命館大教授)

 新型コロナウイルスが日本特有のアナログ文化を揺るがしている。全世界がデジタル化に向かって疾走する中、電子署名ではなく、押印を固守し、電子決済よりも現金を愛用する日本社会がコロナを契機に変化するか注目される。

 4月28日の日本経済新聞と朝日新聞によると、安倍晋三首相は27日、経済財政諮問会議で関係官庁に対し、テレワーク(在宅勤務)推進のため、捺印や書面提出などに関する制度と慣行を再検討するよう指示した。

 日本政府は新型コロナウイルスの拡大を防ぐため、企業に在宅勤務を勧告しているが、特有の「はんこ文化」があるため、現実的に不可能だという世論が広がっている。日本政府だけでなく、企業は本人確認が必要な場合、電子署名ではなく、紙に直接印鑑を押して提出させている。日本企業の非効率性を象徴する代表的な慣行の一つだ。

 在宅勤務中にもかかわらず、押印や上司による決裁のために出勤しなければならないケースが出ていることには不満が相次いだ。メッセンジャーアプリLINEの法務室長は日本経済新聞に対し、「月に押印しなければならない紙の契約書が1000通を超える」と話した。日本の情報経済社会推進協会(JIPDEC)が3月に発表した資料によると、日本企業で電子契約を導入しているのは40%にとどまっている。

■追い立てられてデジタル化、それでもはんこ文化捨てられず

 日本企業が印鑑を好むのは、複製が難しく、セキュリティー面で信頼性が高いという理由だが、そうした認識は最近の技術の発展を過小評価しているとの声もある。3Dプリンターを使えば、いくら精密に作られた印鑑でも複製が可能で、高度に暗号化された電子署名に比べ、セキュリティー性が低いとの指摘だ。

 武蔵大の庄司昌彦教授(情報社会学)は「日本のはんこ文化は紀元前3000年から始まり根が深い。「はんこがなければ見栄えが悪い」「雰囲気が出ない」という認識がある。伝統と格式を尊重する側面でははんこが残り続けることになりそうだ」と述べた。

 日本の印鑑重視は情報技術(IT)を担当する官庁の大臣が「日本の印章制度・文化を守る議員連盟(はんこ議連)」の会長を務めていることにも表れている。世界的な趨勢に遅れないようにデジタル化を推進していながら、はんこ文化という伝統を捨てられない日本社会の実情を端的に示す事例と言える。

 竹本直一IT・科学技術担当相は14日、はんこ文化について、「(官公庁ではなく)しょせんな民間同士の話だ」と発言したが、政府の契約が全て紙と印鑑で交わされている事実を知らなかったとの指摘も出ている。

■コロナ特別給付金も郵便で申請必要

 デジタルよりもアナログを好む傾向は、新型コロナウイルス感染防止への対策として一律10万円を給付する「特別定額給付金」の支給が遅れる原因としても指摘されている。

 米英は政府のデータベースに登録された国民の社会保障番号、納税データなどを活用し、個人口座に直接現金を振り込んだ。日本は受給者がインターネットまたは郵便で申請する必要があり、給付には少なくとも3カ月かかると予想されている。

 郵便よりも手続きが簡単なインターネット申請も申請が可能な対象者は全人口の20%に満たない。政府が2016年に導入した「マイナンバーカード」を持つ人に限り、インターネット申請が可能だが、交付率は15.5%にとどまっている。

 マイナンバー制度では所得や課税情報を政府に提供する代わり、固有の番号が割り振られ、官公庁や金融機関での書類手続きを簡素化できる。しかし、日本国民は個人情報流出を懸念し、マイナンバーカードの申し込みをためらっている。野村総合研究所の2018年の調査では、回答者のうち、「便利になるならば、個人情報を登録してもよい」と答えた人よりも、「メリットが多くても個人情報を登録したくない」と答えた人が多かった。

イ・ヒョンスン記者

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