ユダヤ人虐殺の戦犯であるアドルフ・アイヒマンは1946年、連合軍の刑務所から脱出し姿を消した。ゲシュタポの総責任者に「われわれに50人のアイヒマンがいれば、ユダヤ人を絶滅させ勝利していたはず」と言わせた人物だ。1948年に建国したイスラエルはただちに彼を追跡した。1960年5月にはイスラエルの首相が「アイヒマンを逮捕し護送した」と短く発表した。10年以上の追跡の末にアルゼンチンで身柄を拘束し引き連れてきたのだ。アルゼンチンは国連安保理の招集を要求するなど激しく反発したが、イスラエルは全く動じず1962年の深夜に処刑した。今も全世界で隠れたナチス戦犯を追跡している。

 1972年のミュンヘン・オリンピックでイスラエル選手団11人がパレスチナの過激派組織「黒い9月」によるテロで命を落とした。イスラエルの情報機関(モサド)は報復の暗殺作戦を開始した。パリ、アテネ、ベイルートをくまなく探して報復を繰り返し、7年かけてテロ犯全員を暗殺した。2004年にパレスチナ人指導者のアラファトが「毒殺」された背後にもモサドがいたとのうわさが広まった。「ユダヤ人はやられたら絶対に忘れずやり返す」という認識が形成された。

 イスラエルの弁護士ニトサナ氏は北朝鮮権力による犯罪を解明し、代償を支払わせる活動を20年近く続けている。北朝鮮に拉致され殺害されたキム・ドンシク牧師の遺族を支援するため、北朝鮮船舶の抑留訴訟も起こした。船舶を競売にかけ、遺族への賠償金を確保しようとした。「ユダヤ人がなぜ北朝鮮と戦うのか」との質問に「イスラエルはもちろん、世界の安全保障にとって脅威だからだ」と答えた。イスラエルの空港で手りゅう弾を投げた日本の赤軍派や中東テロ組織の背後に北朝鮮がいるというのだ。北朝鮮の仕業と疑われるサイバー攻撃も受けたが「ユダヤ人の辞書に『放棄』はない」と語る。

 北朝鮮に抑留され死亡した米国人大学生のワームビアさんもユダヤ人だ。彼の両親は米国内の銀行に凍結されていた北朝鮮関連資金2379万ドル(約25億4600万円)を突き止めたという。息子の残酷な死に対する賠償金になるかもしれない。ユダヤ人の母親は「北朝鮮は(抑留する)子を間違って選んだ。死ぬまでに北朝鮮政権を崩壊させるだろう」と語った。米政界とユダヤ人ネットワークを総動員し、海外に隠されている北朝鮮の資産を追跡しているという。北朝鮮がベルリン大使館の敷地で運営していたホステルについても、ドイツで訴訟を起こして中断させた。「北朝鮮は完全に引っ掛かった」との見方も相次いでいる。

 裕福なワームビアさんの両親が金に目がくらんだとは考えられない。家族にとって最も大切なものを暴力で奪っておきながら、謝罪の一言もない無道な集団に対する怒りであり、闘争ということだ。われわれは果たしてどうだろうか。

アン・ヨンヒョン論説委員

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