最近、韓国大法院(最高裁判所に相当)のとんでもない判決が法曹界で話題になった。軍部隊内での暴行事件で、軍事法院(裁判所)が罰金200万ウォン(約17万5000円)を宣告したのに対し、大法院が「法の適用を誤っている」として破棄差し戻しとした事案だ。大法院は、被害者が処罰を望んでいないため加害者を処罰することができないと判断した。刑法上の「反意思不罰罪」というわけだ。しかし、実際に法を誤って適用したのは大法院の方だった。軍部隊での暴行は一般の刑法ではなく軍刑法違反であり、反意思不罰罪ではない。したがって、軍事法院の有罪の判断が正しいわけだ。大法院は法の条文も十分に読み込まずに裁判したのだ。

 大法院のミスが明白だったため、軍事法院は再び有罪判決を下した。その後は大法院がミスを認めて最終有罪宣告を下せばいいはずだった。ところが、再びおかしな判決が下された。大法院は「誤っていた」とは言わず「判断の基礎となる事件の事実関係が変更された」と結論を変えた。自分たちのミスは包み隠そうとし、何としてでも結論は「有罪」とこじつけなければならず、ありもしない「事実関係の変更」があったと言い逃れをしたわけだ。

 大法院がもみ消そうとしていたこの事件は、軍事法院が判決文をホームページに公開したことで法曹界に知れ渡ったという。大法院の「無茶苦茶な判決」を告発したわけだ。ある下級審の判事は「ミスしても最後まで隠そうとする大法院を、誰がかばいたいと思うだろうか」と話した。

 似たようなことは昨年にもあった。大企業の通常賃金事件で、大法院が「売り上げは5兆-6兆ウォン(約4400億-約5200億円)と安定している」として企業側に追加手当を支給するよう命じたが、実施にこの企業の売り上げは2兆ウォン(約1700億円)しかなかった。大法院は「現金資産もかなりある」と経営状況を評価したが、実際は資本の食い込みが起きそうな状況だった。経営状況は通常賃金の裁判で考慮される重要な要素だ。それにもかかわらず、大法院は「数字が変わっても結論は同じ」と主張した。ミスを犯しておきながら声を荒らげたわけだ。

 大法院の問題はこれにとどまらない。弁護士たちは、無責任な上告棄却の乱発が最も深刻な問題だと指摘する。「判例を示さない」「法理を発展させるつもりがないようだ」との批判が相次いで出ている。大法院が当然すべきことを、していないというわけだ。

 ある弁護士が経験談を語ってくれた。大法院の判例がない事件で、上告理由書を100枚も書いて「(大法院まで上がってきた)初の事例であるため、判決理由を明らかにして判例として確立してほしい」と訴えたという。しかし大法院はわずか4文の判決文で上告を棄却した。弁護士が提出した上告理由書の題目が判決文のほとんどを占め、「原審に誤りはない」と付け加えただけだった。なぜそうなのか、理由は自分たちで判断せよと丸投げしたわけだ。90%以上の大法院の刑事判決が、このような「問答無用の上告棄却」によって終結している。

 別の弁護士の話では、争点の全く同じ二つの事件が、下級審で正反対の結論が出て、大法院に上がったものの両方の上告が棄却されたというケースもあったという。大法院が「法の解釈基準提示」という任務を放棄したわけだ。上告審の事件数は減っているが、事件処理期間はどんどん長くなっている。権利救済が遅れれば当事者たちの苦痛はそれだけ大きくなる。大法院の「裁判の力量」が以前ほどないか、あまり仕事をしないために起きている結果だといえる。

 金命洙(キム・ミョンス)大法院長は就任以降、一貫して「良い裁判をする」と言ってきたが、今の大法院の姿とは程遠い。国民の権利救済をおろそかにし、初歩的な事案でミスを連発しては隠すことばかりに躍起になっている大法院が「良い裁判」を語る資格があるのか問いたい。下級審と弁護士たちには尊重もされなくなっている。良い裁判は口先だけでできるものではない。

イ・ミョンジン記者

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