▲サムスン電子平沢キャンパス第2生産ライン/同社提供

 サムスン電子は1日、京畿道平沢市の「平沢キャンパス」に8兆ウォン(約7000億円)を投資し、NAND型フラッシュメモリーの生産ラインを建設すると発表した。5月21日には同じ場所に9兆ウォンを投資し、半導体ファウンドリー(受託生産)のラインを新設すると発表したばかりだ。サムスンが相次いで数兆ウォン規模の最先端半導体工場の新設計画を明らかにしたのは異例だ。

 半導体専門家は「新型コロナウイルスと米中通商摩擦で世界の半導体市場に不確実性が高まる中、果敢な先行投資で後発メーカーとの差をさらに広げようという伝統的なサムスン式半導体戦略だ」とみている。ただ、財界の一部からは「思い切った投資戦略はよいが、最近やや急ぎ過ぎの感がある」との感想も漏れる。

■背景にNANDメモリーの需要増

 サムスン電子は先月、平沢第2生産ライン(P2)でNAND型フラッシュメモリーの生産のためのクリーンルームの工事に着手した。来年下半期から最先端の積層NAND型フラッシュメモリー(V-NAND)を量産する予定だ。NAND型フラッシュメモリーは電源が切れてもデータが損傷しないメモリー半導体で、主にスマートフォンやデータセンターでデータ保存用に使われる。サムスン電子は昨年時点でNAND型フラッシュメモリー市場のシェア35.9%を掌握し、18年連続で首位を守っている。

【表】全世界のメモリー半導体市場シェア

 投資の背景にはNAND型フラッシュメモリーの需要急増に対する期待がある。在宅勤務やオンライン教育、動画視聴などデータ使用量が増えているためだ。市場調査会社IDCは、2016年に16.1ゼタバイト(ゼタは10の24乗)だった世界のデータ発生量が25年には163ゼタバイトに増加すると見込まれる。10倍に増えれば、それに見合うデータを保存するNAND型フラッシュメモリーの需要も増えるとの判断だ。サムスン電子は今年4月の業績発表に際し、今年下半期のNAND型フラッシュメモリーの需給状況が追い風になるとの見方を示した。

 首位サムスンのライン増設を受け、日本のキオクシア(旧東芝メモリ)、米マイクロン、インテル、韓国のSKハイニックスなど2-6位のライバルメーカーは緊張せざるを得ない状況だ。NAND型フラッシュメモリーは昨年、価格が暴落し、後発メーカーは赤字の崖っぷちに追い込まれた後、今年は新型コロナウイルスによる予想外の需要回復で安堵(あんど)しているところだからだ。サムスンは現在、中国・西安市にもNAND型フラッシュメモリーの生産ラインを増設している。サムスン電子の生産ライン増設が今後、後発メーカーのライン増設につながるかは推移を見守る必要がある。

 半導体業界関係者は「サムスン電子が量産時期を来年下半期に定めたことは、首位を十分に守れるという自信の表れだ。2位の日本のキオクシアがシェアを守るには追加投資が必要となるが、追随は容易ではないだろう」と話した。

 さらに、NAND型フラッシュメモリー市場に新規参入を狙う中国の新興メーカーに対する警告の意味も大きいとみられる。供給過剰となれば、数十兆ウォンを投資し、量産を開始したばかりの中国メーカーが最も深刻な打撃を受けるからだ。

■相次ぐ兆ウォン単位の投資

 サムスンが平沢第2生産ラインにNAND型フラッシュメモリーのラインまで設置すれば、サムスン平沢キャンパスは世界最大・最先端の半導体複合生産基地になる見通しだ。今後平沢第2生産ラインでは最先端のEUV(極端紫外線)工程によるDRAM生産、NAND型フラッシュメモリーの生産、超微細プロセスによる半導体ファウンドリー事業が同時多発的に推進されることになる。単一拠点でDRAM、NAND型フラッシュメモリーの生産、ファウンドリー事業を全て行うのは異例のことだ。

 財界は「不況時に投資しろ」というサムスン電子の戦略が込められているとみている。サムスンは危機であればあるほど、市場を綿密に分析し、勝算があると判断すれば、思い切った先行投資を行ってきた。2000年代後半、日本のエルピーダ、ドイツのキマンダなどと展開したメモリー半導体の生存競争でもそうした戦略で勝利を収め、液晶パネル市場の争奪戦でも同様の戦略を用いた。また、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長が相次ぐ検察捜査、米中対立の激化などで内外の不確実性が高まる中でも投資に関する約束は必ず守るという意思を示したと受け止められている。

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