日本の韓国強制併合100周年に当たる2010年、韓日の知識人およそ1000人が共同声明を出した。日本の植民支配は当初から無効だという宣言だった。日本側からは、ノーベル文学賞を受賞した作家・大江健三郎、三谷太一郎・東京大学名誉教授など531人が参加し、韓国側からは李泰鎮(イ・テジン)・白楽晴(ペク・ナクチョン)ソウル大学名誉教授、作家の金芝河(キム・ジハ)、李文烈(イ・ムンヨル)などが宣言に参加した。双方の代表的な保守・進歩系知識人が乗り出したのだ。

 この声明は同年8月、「植民支配は韓国人の意に反して行われた」という内容の菅直人首相の談話を引き出した。日本側は翌年、宮内庁所蔵の「朝鮮王室儀軌」など日帝時代に朝鮮から持ち出した図書1200点を韓国に返した。しばし、さわやかな風が吹き抜けた。あれから10年、大韓海峡を間に挟んで反日・嫌韓の逆風が吹き荒れている。知識人声明を主導した和田春樹・東京大学名誉教授(82)と金泳鎬(キム・ヨンホ)慶北大学名誉教授が、8月第2週の週末に電話と電子メールを通して、凍り付いた韓日関係を点検して出口を探る対談に臨んだ。

金泳鎬(以下、金)「植民支配が当初から違法・無効だったという宣言に日本の主流知識人が大挙参加するにあたり、和田先生の役割は決定的だった」

和田春樹(以下、和田)「金泳鎬・李泰鎮教授をはじめとする韓国の人々が乗り出したことで可能だった。加害国と被害国の知識人が過去史を巡って合意できるというのが希望を与えた」

金「韓日知識人声明に呼応して菅直人首相が出した談話は、以前とはどのような点が違っていたか」

和田「併合そのものに対する問題提起が出たという点だ。菅直人首相は、閣議をへて2010年8月10日に談話を発表した。『当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。(中略)この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします』と語った。われわれが発表した知識人声明に最も近い談話だった」

金「菅直人談話は知識人声明が生んだ成果で、韓国大法院(最高裁に相当)の徴用判決につながるという点で『大河がついに道を開いた』(李陸史〈イ・ユクサ〉の詩『広野』)と思う。今、日本の首相官邸のホームページからこの談話は削除されているという。韓国でも菅直人談話を重視しない雰囲気だ」

和田「韓国の憲法裁判所は2011年、慰安婦訴訟解決に積極的に乗り出さない韓国政府の不作為は違憲と判決し、12年と18年には大法院が日本企業の強制動員に対し賠償判決を下した。知識人声明と菅直人談話がここに影響を及ぼしたと思うか」

金「そういう意見が出ている。09年、韓国の高裁は強制動員被害の控訴審で日本の最高裁の原告敗訴判決(07年)をそのまま受け入れた。韓国の裁判所は、強制動員に対する日本の賠償責任認定に消極的だった。知識人声明で併合条約そのものが違法・無効だという事実が強調され、植民統治の性格に対する認識が変わったことで、憲法裁と大法院の判決が変わったのではないかと思う。このため、知識人声明が韓日関係を悪化させたという恨みの声も聞く」

和田「日本の保守団体からは、私を名指ししつつ、知識人声明が日韓関係を悪化させた主犯だという厳しい表現が出て久しい。だが誰かがどうしてもやらなければならないことだった」

金「韓日関係は最悪だ。今であれば、日本の知識人がこのような声明に大挙参加できるだろうか」

和田「雰囲気もかなり変わり、亡くなられた方も3分の1以上だ。あのころのように大勢参加するのは難しい。だが当時共同声明に参加した知識人は学問的信念から乗り出したのだから、時間がたったとしても別に差はないだろう」

金「韓国人は、安倍政権が植民支配に対する反省と省察を受け継いでいないことについて怒っている」

和田「私は文在寅(ムン・ジェイン)大統領が慰安婦合意を覆したのは問題だと言ってきた。両国政府が行った合意は、やや足りないとしても守るべきだった。日本では、慰安婦合意破棄で韓国を信用しなくなり始めた」

金「安倍首相は韓日知識人が一緒に進めた共同声明をひっくり返した。安倍首相の逆風が狙う『65年体制』固守と韓日知識人声明の新韓日体制は、妥協の余地が全くないのだろうか。知識人声明は、1965年の韓日基本条約第2条(1910年8月22日およびそれ以前に大韓帝国と大日本帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される)を『当初から無効とする』とみなす韓国側の意見を受け入れるという『解釈改正』ではないか」

和田「解釈改正という点でみれば新韓日体制だが、条文は改正しないという点では『65年体制』だ。問題は、安倍政権と文在寅政権は既に妥協不可能な犬猿の仲という点だ。安倍政権はコロナ対応失敗で植物状態に近い。支持率が回復する可能性はない。時を待つことを知るのも戦略だ。日本製鉄は安倍政権の意図から脱し、韓国の裁判所の資産差し押さえに対して抗告した。既に韓国大法院のプロセスに乗り換えたということだ」

金「安倍政権の反動に抵抗する日本市民の力を期待できるだろうか」

和田「市民の抵抗は既に始まっている。安倍首相の支持率の急減が証拠だ。平和憲法を守ろうという市民の自信もぐんと増加した」

進行・整理=金基哲(キム・ギチョル)学術専門記者

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