ロシアのプーチン大統領は昨年12月末、「セルフ免責法」に署名した。大統領が任期を終えた後も刑事責任を負わない免責特権を与えるという内容だ。退任後に備えたのだ。この法律は12月初めに下院(ドゥーマ)を賛成356、反対41で通過した。これに先立ち昨年3月には、プーチン大統領が2036年まで権力の座を維持できるようにする改憲案が処理された。賛成は383票だった。3期連続で大統領を務めることを禁じる憲法上の条項を、プーチンについては例外とする内容だ。合法的な方法で終身独裁体制を固めたのだ。

 与党「統一ロシア」は下院450議席中339議席を有している。残りのおよそ110議席は三つの野党が分け合っている。大統領直選制、多党制の形式を備えたロシアは、民主主義国を旗印とする。しかし、野党を「付き添い役」に仕立てて政権の思い通りにやっているロシアを、誰も民主主義とは思っていない。

 EU(欧州連合)では最近、ポーランドとハンガリーについて「退出論」が持ち上がった。法治と民主主義を順守しないという理由からだ。ポーランドは、東欧諸国の中では模範的に民主主義を定着させた国と評されてきた。ところが現与党の「法と正義」(PiS)は、2015年に政権を取った後、司法府とメディアの掌握に乗り出して独裁の道へと進んだ。判事の任免権を裁判所から奪って議会に置き、与党が司法府を牛耳ることができるようにした。批判的なメディアは、国営石油会社を前面に出す形でまるごと買収した。ハンガリーのビクトル・オルバン首相も、2010年に政権を取った後、司法掌握を通して独裁の基盤をつくった。改憲によって最高裁の裁判官および長官を政府が解任できるようにし、判事・検事の定年を引き下げ、司法府の人物を与党系に入れ替えた。それでもオルバン首相は「民主主義がうまく働いている」と言う。

 よその国の話とばかり言っていられるだろうか。先の総選挙で180議席という絶対多数を得た韓国与党「共に民主党」は、多数の暴走をためらう気配がない。自分たちが行った約束を覆して野党の拒否権を剥奪する高位公職者犯罪捜査処法改正案を処理し、「表現の自由の侵害」という批判がある対北ビラ禁止法を強行して国際社会の懸念を買っている。野党のフィリバスターは数の優位を押し出して強制終了させてしまった。与党からは「180議席の力を見せてやった」との自己評価が出てきた。検察総長を追い出そうとして裁判所から制止されると、「司法クーデター」うんぬんと言った。検察総長の弾劾まで論じ、検察の捜査権をなくしたいという。列挙するのも大変なほどだ。

 ハーバード大学のスティーブン・レビツキー教授は、著書『民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道』で、選出された権力によって民主主義が合法的に覆されることを警告した。その上で、民主主義を守る中心的な規範として、成文化された規範よりも「相互寛容」と「制度的自制」を挙げた。相互寛容とは、競争者を尊重し、異なる意見を認めることだ。制度的自制とは、政権勢力が権力行使に慎重になるすべを知ることだ。多数を掲げて力でのみ押し付けたら、もっと大きな主権者の力が船をひっくり返してしまいかねない。

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