昨年の「チャンネルA事件」の捜査過程で一般人には聞き慣れない「涜職(とくしょく)暴行」という犯罪用語が登場した。ソウル中央地検の捜査班が韓東勲(ハン・ドンフン)検事長の携帯電話を押収する過程で起きた暴行事件に適用された容疑だ。文字通りに解釈すると、「職を汚した暴行」という意味だ。刑法125条に規定されている涜職暴行罪は裁判所、検察、警察などの公務員が身体拘束に関わる職務を遂行する際、暴行を加えたり、肉体的・精神的苦痛を与えたりした場合を指す。

 涜職暴行は通常の暴行罪よりも罪が重い。罰金刑はなく、懲役刑のみが適用される。起訴事実が認められれば、5年以下の懲役、10年以下の資格停止に処される。金槿泰(キム・グンテ)元議員をはじめ数多くの野党・学生運動家を拷問した「拷問技術者」李根安(イ・グンアン)氏は涜職暴行罪などで懲役7年を言い渡された。

 韓国の刑法体系に涜職暴行に関する条項が別途あることに今更ながら感動した。同条項は国家権力から市民を守るためのものだ。不法な権力行使をけん制する内容となっている。民主と民権を象徴する条項だと言える。

 でっち上げられた書類で金学義(キム・ハクウィ)元法務部次官に不法な出国禁止措置を取ったことは国家権力が民権を踏みにじる行為だった。刑罰権を管轄する法務部と検察がそれに関与した。金元次官は検察幹部時代、建設業者からみだらな性的接待を受けた疑惑が持たれている人物だ。ただ、いくら「悪いやつ」だとしても、処罰を行うには権力行使の過程は適法でなければならない。それが法治であり民主主義だ。処罰の目的を達成するために手段と方法の脱法を容認するならば、拷問もできないことはない。全体主義の独裁国家で横行していることだ。

 李根安はそうだった。「容共分子処罰」という彼の正義を実現するため、関節折り、電気拷問をいとわなかった。李根安は7年の刑期を終え、数年後にメディアのインタビューに応じ、自分は拷問技術者ではなく、「尋問技術者」だと言った。自分の行為は「愛国」だとも語った。「当時に戻っても同じことをやる」とも言い放った。正義を実現するという名分で不法に目をつぶれば、こんな野蛮に帰結する。

 金学義元次官に対する不法な出国禁止措置は、当時大検察庁過去史真相調査団に派遣されていた検事個人の犯罪だろうか。もちろん偽の事件番号を記した虚偽文書で出国禁止要請書を作成し、事後承認要請書にありもしない内部調査番号を記載して執行したのはその検事だ。しかし、法務部が今月12日、16日に相次いで示した公式見解によると、そうした犯罪が政府レベルの問題であることが分かる。法務部は見解の中で、「差し迫った不可避な事情を考慮する必要性があった」「副次的論争だ」とした。国家機関を動員し、露骨に不法行為を犯した事例が繰り返されると思えば、政府は違法性が指摘された問題について、公式見解でも「避けられなかった」「副次的」という弁明を堂々と行った。

 どうしてこんな状況になったのか。正義を独占しているかのように陶酔し、不法に対する感覚がまひしたのだ。大統領の友人を蔚山市長に当選させるため、青瓦台の7つの組織が介入した政権だ。月城原発の早期閉鎖を願う大統領の意向に沿い、経済性評価をねつ造した政府だ。こんな不法を犯しても検察の捜査班を分解させ、監査院長を「家を番をしろと言ったら、主人のように振る舞っている」などと攻撃する。あきれることに政府は開き直り、「民主主義に対する挑戦だ」「法と制度を思い通りに裁いている」などと言っている。法治と司法体系を破壊し、民主主義を攻撃している集団が法と制度、民主主義をうんぬんしている。

チョ・ジュンシク副局長兼社会部長

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