「米国産オウム」--。3月30日に北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党宣伝扇動部副部長が文在寅(ムン・ジェイン)大統領を非難した表現だ。文大統領が北朝鮮の弾道ミサイル発射に懸念を表明すると、朝鮮中央通信を通じて発表された。北朝鮮のミサイルを国連決議違反、国際社会に対する脅威と見なす米国の立場を繰り返したものだとして、文大統領をオウムに例えてからかったものだ。

 北朝鮮の奇想天外な「暴言」は時にはミサイルよりも話題になり、論議を呼び起こす。1月に「党大会記念閲兵式(軍事パレード)を精密にとらえた」という韓国側に対しては、「文不相応な言いぐさ」「特等のあほたち」などと非難した。米国と日本の指導者も標的にされた。トランプ前大統領は「棒きれで容赦なく殴り倒すべきほど狂っている」、安倍晋三前首相は「平和を脅かす侍の子孫」とののしられた。

■期間ごとに「文章作成専門部署」

 北朝鮮の各機関には文章を作成する専門部署がある。金与正氏の暴言について、専門家は対外メッセージを担当する統一戦線部が作成したものだとみている。統一戦線部は主に対南機関の祖国平和統一委員会のメッセージを担当する。金与正氏は現在、労働党宣伝扇動部の副部長だ。宣伝扇動部は基本的に北朝鮮の対国内宣伝部門だ。しかし、北朝鮮ナンバー2の金与正氏には所属や肩書は特に意味がない。

 北朝鮮外務省には文章作成専門の「9局」がある。20人前後が外務省として発表する声明を作成しているとされる。軍関連の声明は北朝鮮軍内部の偵察総局傘下にある戦略企画担当部署が作成するが、人員だけで100人規模に達するという。もちろん最終決定権者は金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長だ。金委員長の発表承認を北朝鮮では「方針」と呼ぶ。その後、新聞・放送を通じ、金与正氏、外務省、参謀総長などの名義で発表される。

■文学的素養を持つエリートが作成

 文章作成専門部署には文学的素養を持つ金日成(キム・イルソン)総合大学語文学部、金亨稷(キム・ヒョンジク)師範大学作家養成班出身のエリートが多く抜てきされる。大学での「文章作成方法」という90分の講義で教授は労働新聞の記事を読み、作文課題を下す。例えば、教授が「韓米両国が繰り広げる合同軍事演習チームスピリットが始まった」という記事を示すと、学生が1ページ分量の宣伝文を書くといった具合だ。「最近南朝鮮の田畑ではカエルが早く土から出てきたという。チームスピリット演習に動員された戦車が通過し、驚いて飛び出してきたものだ」といった斬新かつ文学的な表現を書くことができれば高い点数が得られる。同様に各部署では忠誠競争式に過激で奇抜な宣伝表現を考案すれば、組織内で昇進し、順調に出世するというのが北朝鮮出身の専門家の話だ。

■最新の単語帳作成して研究

 文章作成専門家は自分だけの「単語帳」を持っているという。別の部署が発表した声明から良い表現をメモしておき、さらに優れた比喩や隠喩を考える。約2000人が活動するとされる朝鮮作家同盟の文学作品も参照する。体制宣伝の道具として活用される北朝鮮の文学作品には2つの軸がある。金氏一族を称賛することと米国と韓国という「敵」を卑下することだ。時代の変化とともに新しい日常用語や表現も開発しなければならない。北朝鮮だけでなく、世界的に流行する単語も収集対象だ。韓国向け声明は韓国の新聞と放送で頻繁に使われる表現を収集して取り入れる。最近の声明に登場する「自害」「自中之乱(内輪もめ)」「次元」という単語は北朝鮮で使わない韓国式の表現だ。政策の水位に合った適切な表現を使う必要もある。北朝鮮は2018年、トランプ前大統領を「路地のちんぴら」「狂犬」と非難した。米朝首脳会談を控えた時期には「米政権担当者」と表現し、ムードの緩和を図ろうとした。

 ※記事作成に当たっては、北朝鮮外交官出身の太永浩(テ・ヨンホ)国民の力議員、脱北作家のリム・イル氏、自由北韓放送のキム・ソンミン代表、建国大統一人文学研究団のチョン・ヨンソン教授による助言を得た。

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