2月14日午後、ソウル市竜山区の住宅街で40代の男性が体をぶるぶる震わせながらうろついている、という通報が入った。警察が現場に駆け付けると、覚醒剤を使用している状態だった。この男は、消防学校で消防士を教える現職の消防幹部(消防警)だった。警察の取り調べに対し、この男は「昨年末から覚醒剤を数回にわたって使用した」と供述した。

 2月8日午前3時ごろ、ソウル市瑞草区良才洞の路地でA(36)が運転していた車が道路脇に止められていた2台のオートバイとエアコンの室外機に相次いで衝突した。警察が駆け付けたところ、Aはまともに話すことさえできなかった。飲酒測定結果は正常。簡易試薬検査では「大麻陽性」反応が出た。2月7日午後9時ごろ、ソウル市江南区のコンビニに大麻やヒロポンを使用した30代の女が「助けて、麻薬を使用した」と、しどろもどろに話し掛け、現行犯で逮捕された。1月31日にはソウル市江南区でタクシーに乗った男女2人が車の中に覚醒剤と注射器の入ったかばんを忘れて降りたことで逮捕され、その1週間ほど前は麻薬を使用した30代の脱北者の男性が大胆にも大統領府の交通警戒所を訪れ「覚醒剤を使用したため、自首しにやって来た」とたどたどしい口調で供述。その場で逮捕された。

 最近、ソウルをはじめとする全国各地で麻薬を使用した人たちによる事件、事故が相次いでいる。寄宿舎や地下クラブなど、目立たない所を拠点としていた覚醒剤使用者らが、白昼堂々と街に繰り出し、これを使用する人が急増している。コロナをきっかけに非対面、オンラインを通じた一般人向けの覚醒剤販売が横行し、自宅や車内で一人で使用する人が増えたためだ。

 2月18日に警察庁が発表したところによると、昨年全国で逮捕された覚醒剤保持者は1万2209人と、前年(1万411人)比で17%増えた。麻薬退治運動本部のイ・ハンドク中毒リハビリチーム長は「コロナでクラブやルームサロンなど、これまで覚醒剤の集団取引・集団使用を行ってきた場所への出入りが困難になったことで、オンラインを通じた非対面での覚醒剤取引が活性化している」とし「誰もが好奇心だけで容易に麻薬を手に入れることができるようになった」と話す。

 同日、ツイッターで覚醒剤の隠語に当たる「○」「XXX」などの単語を検索したところ、「新規顧客募集中」という内容の麻薬取引関連の掲示物が掲載されては削除されているのが確認できた。覚醒剤取引業者らは、ツイッターで覚醒剤を宣伝した後、メッセージアプリ「テレグラム」を通じて取引する手口を使っている。記者が参加したあるチャットルームには240人が参加していた。販売者のBは「取引はオフラインだけで行っていたが、最近では『インターネット広告』を始めた」とし「ビットコインだけで(取引を)行う」と説明した。当初は無通帳口座での入金も行っていたが、最近匿名が保障される仮想通貨に乗り換えたという。同業者はインターネットでの営業に参入したのが昨年5月だと言った。ルームサロンやクラブなど遊興施設での集まりを政府が禁じた直後のことだ。

 警察はツイッターやテレグラムだけでなく、ダークウェブ(特定ブラウザでのみアクセスできる秘密のウェブサイト)を通じても覚醒剤が引き続き取引されているとみている。かつては、覚醒剤を取り扱う業者は、まるで流通組織のように全国に広まっており、該当ルートを知っている人だけが購入できたが、最近では自宅でネット検索するだけでアクセスできるようになったのだ。実際に警察に検挙されたインターネット覚醒剤犯(販売・購買・広告などを含む)は、2018年の1516人から昨年は2608人と、2年で1000人以上も増えた。

 オンライン上で覚醒剤を手に入れた人々は、クラブやルームサロンの代わりに自宅やホテル、車内などで1-3人の小規模単位で使用する。2月2日、現行犯で逮捕された20代の男も、ソウル市瑞草区のオフィステル(ワンルームでオフィスとしても利用可)で女C(23)と共に覚醒剤を服用していたところ、Cが息をしなくなったため、警察に通報した。2月9日、ソウル市江東区千戸洞でタクシーとパトカーに相次いで衝突した後、車を捨てて逃走した運転手の車の中からも空の注射器と数台の携帯電話が発見された。警察は、逃走した運転手が一人で車の中で覚醒剤を使用しながら運転したものと見ている。

 警察も徐々にオフラインからオンラインへ「麻薬捜査」の軸を移行している。今年初めて「サイバー麻薬捜査」分野で経験者の採用に乗り出したのもこのためだ。警察庁の関係者は「サイバー麻薬犯罪が増加し、捜査人員の需要も増えたため」と説明している。麻薬資金が行き交う仮想通貨関連業者に対する捜査も強化している。法務法人テハのチェ・ウィジュン弁護士は「仮想通貨代行業者を利用して覚醒剤を購入しても結局、誰が覚醒剤を買ったのか透明になる」とし「仮想通貨で買えば引っ掛からないというのは正しくない」と述べた。

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