石油販売所の前の長蛇の列、ガソリンスタンドを囲んだ車の列を覚えているならば、50代以上の方々だろう。1970年代初めの第1次オイルショック、70年代末から80年代初めにかけての第2次オイルショックの当時、世界各地で見られた光景だ。半世紀が過ぎた今、新たなオイルショックが全世界を覆っている。5G、人工知能(AI)を動かす「21世紀のオイル」である半導体の不足だ。過去のオイルショックが中東発なら、今回の震源地は台湾の台湾積体電路製造(TSMC)、韓国のサムスン電子のような先端半導体メーカーがある東アジアだ。世界各地の自動車メーカーに続き、家電工場の一部のラインも止まり、全世界が「半導体をもっとくれ」と大わらわだ。

 21世紀の半導体ショックを20世紀のオイルショックに比喩することには理由がある。半導体の需給が地政学的な問題となったからだ。「半導体地政学」の時代が訪れたと言える。それを端的に示す存在が全世界のファウンドリー(受託生産)市場の60-70%を占める台湾TSMC。米インテルも韓国サムスン電子もかなわない最強のシステム半導体メーカーだ。TSMCは台湾だけで海外工場を置いていない。米中が互いをパートナーと呼んでいたころはTSMCの立場に問題はなかった。しかし、米中が新冷戦時代を迎え、中国の「台湾侵攻」懸念まで浮上し、話が違ってきた。

 半導体の自立を渇望する中国は最近数年間、TSMCの技術者を引き抜いた。しかし、「大陸版TSMC」が登場したという話はまだ聞かない。半導体業界では「インテルもサムスン電子も追い付けない企業がTSMCだ。強制的に奪う以外にそんな企業を他の場所につくる方法はない」とまで言われる。中国は安定的な原油輸送ルートを確保するため、地球半周の距離の21世紀版陸と海のシルクロード(一帯一路)を必死に構築した。しかし、中国大陸からわずか180キロメートル先の台湾にあるTSMCには手が届かない。

 アップルのiPhone用部品から最強のステルス戦闘機F35に搭載される軍用半導体までをTSMCに依存する米国はTSMCをあやしなだめるのに余念がない。巨大な中国に対抗する人口2360万人の台湾にとって、最強の防衛戦略はTSMCだという言葉まで漏れる。中国が台湾を武力侵攻し、TSMCを手に入れることを米国が阻止するだろうという話だ。米国は一方では米アリゾナ州にTSMCの工場を誘致した。工場新設には30兆ウォンが投じられる予定だ、TSMCは日本に研究センターと生産ラインを新設することも検討している。まともな半導体メーカーもなしに技術崛起(くっき)を目指さなければならない中国にとって、TSMCを軸とする反中半導体同盟には鬱憤(うっぷん)が爆発しそうだ。

 韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官は3日、中国福建省アモイ(厦門)市を訪れる。台湾領の金門島から夜明けにニワトリの鳴き声が聞こえるという場所だ。そんな場所で対米ショーマンシップに長けた中国の王毅外相と会談するのだ。アモイから北西に1400キロメートル離れた西安にサムスン電子のメモリー半導体工場がある。巨大市場を背景とした中国の圧力を受け、砂塵が舞う西安に大規模半導体工場を建設したというのは秘密ではない。TSMCが相手の技術主導権争いでさえ手強いのに、中国に担保を取られているサムスン電子にとって、米中対立の中でバランスを取ることはとてもつらい。鄭長官にはどうか会談に先立ち、選挙戦に活用できるような「習近平主席訪韓推進」といった言葉を期待するのではなく、21世紀の半導体地政学の中で韓国の位置を胸に刻んでもらいたい。

李吉星(イ・ギルソン)記者

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